やる夫は浪速の商人になるようです 第八章
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12973/1395318502/470 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:06:33 ID:Cnt0v6QE0
第八章
結実ひとつ
.
471 名前: ◆8epcM/V4rs[sage] 投稿日:2014/04/28(月) 22:06:55 ID:Cnt0v6QE0
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;! '~ "~ `i||i" '' `ヘ;;;!
|;;;| ヽ` u ミ;;;|
_ゞ;!,-;;;;;;;"フノ ヾ`;;;ヽ 、ミ;リ 何?
!ヘl;|.,,_==-、く` ,>゙-== 、「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |ミ.' ̄" , ドリ 井川屋の旦那さんのお許しを
ヾ、! !ミ ,レソ
`| ^'='^ ム'′ 貰わずに出て来たのか?
. ト、 、,.-‐ 、,, /|
i| \ ' ニ イ.:|
,イi| ゙、\ ( /リ.:;ト、
ノ :.:i| ゙、 `ー─''゙:::;:'::::::!:::\
/  ̄ ̄ \
/ノ ヽ__ \
/(―) (― ) \
|. (_人_) u |
.\ `⌒ ´ ,/ へ、へえ……
/ ヽ
./ l ,/ / i
(_) (__ ノ l
/ / ___ ,ノ
!、___!、_____つ
やる夫から事情を聞いた高和が呆れている。
.
472 名前: ◆8epcM/V4rs[sage] 投稿日:2014/04/28(月) 22:07:19 ID:Cnt0v6QE0
___ _
-‐''"´ ̄ ` `''ヽ=、
,.‐''"´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
r(:::::::::::::::::,、_ィ::::::::::::::::::::::::::::::::::
ゞ, rr~ヅ ミ:::::::::::::::::::::::::::::::::
フハ ミ::::::::::::::::::::::::::::::
. l __,,. -─¬,〈::::::::::::::::::::::::::::::
〉゙゙`'''ニ二 ̄ ヽ::::::,ィ ,、ヽ::::::: 何とまあ……
. / "" U }:::/ /ヽ ハ:::::::
/.. "´ 2ノ/ l::::: 奉公人が主人に逆らう、なんてのは
. ヽ.ニ,` __/ :l::::
. 'ーr‐- .ィ l::: 俺が若い時分には考えられないことだが……
〈.. /:{ ヽ
`} /:: ! i
丶、,、. イ:::::: !
____
/ \
/ \
/ _ノ ::::::: ゝ、 \
.| (○) (○) u | す、すんまへん……
\ (__人__) ,/
/ `⌒´ \
やる夫は申し訳なさげに身を縮める。
そのことを伏せて寒天場に立つことも出来たが、高和には話しておきたかった。
.
473 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:07:38 ID:Cnt0v6QE0
と、高和がにやりと笑う。
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ
!ヘl;| '____` ,ィ '"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ 侍だったら、脱藩だな?
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′
,rト、 ー_ ‐-‐ァ' /|
_../ i| \ 二" ,イ.:ト、
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
____
/ \
/ u ノ \
/ u (●) \ へっ?
| (__人__)|
\ u .` ⌒/
ノ \
.
474 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:08:24 ID:Cnt0v6QE0
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- ..,,_ ,,.-‐'''' ミ;リ まあいいさ。
!ヘl;| ,.=≡=、` ,´ィ,.=≡=、「ヽ
!(,ヘ! '" |:::.` ,ドリ 旦那さんに納得していただけるような糸寒天を
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′ 作ればいいだけの話だ。
.ト ヽ二二二フ .,イ
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
___
/ ⌒ ⌒\ __
/ (⌒) (⌒) \〈〈〈 ヽ
/ ///(__人__)/// 〈⊃ }
| u. `Y⌒y'´ | | …へえ!
\ ゙ー ′ ,/ /
/⌒ヽ ー‐ ィ / (高和はん…ありがとうさんだす……)
/ rー'ゝ /
/,ノヾ ,> /
| ヽ〆 |
自分を力づけようとしてくれる高和の心づかいがありがたくてならなかった。
.
475 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:08:51 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
476 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:09:10 ID:Cnt0v6QE0
その冬、常は積雪の少ない原村に、珍しく雪の舞う日が続いた。
° _,,--⌒^``:、 ο
,r''" ` ‐-、 _,,._
,,r''"~⌒^`:、 _,,..-‐''" ^`: `、 __,, --‐''
⌒^~' ` ‐- --‐'''""`⌒^.、..,,__ __ ,... .-‐`‐ -‐‐''''""
,i'⌒ヽ シ ''':‐-,‐‐''' ⌒^~
,( )ο // ο ° ""'⌒-- ,, , ;; ,,, ,,,;;
\ | ゛-、 /./ --
\`ー' \// ο ° ο
`\ ",ノ
o | /゚ ,i'⌒ヽ、 ο °
゙、\_ノ i o ( ) °
` 、゙ ノ /`;;;;;_ノ ο
\ i,//´
i /
i | r °
i |ノ
/ο i ο
i |
ー.^ノ、.......,iー.⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒^~⌒
凍結を遅らせるため、雪は寒天作りにとっては天敵である。
.
477 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:09:35 ID:Cnt0v6QE0
棚場に立って空を見上げていた高和が首を横に振る。
______
,,..-‐";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;` 、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|
|;;;;i "'`~ "`~ `i||i" '' ゙` " |;;;;;;|
|;;;;| ヽ` u |;;;;;|
.|;;| ,-;;;;;;;;;;"フノ ヾ`;;;;;;;;;;;;;;;ヽ |;;;;|
,,ト;| ',,_==-、く >゙-==、 |/ i
|i 、| ' ̄"彡| || |
|'. (| 彡| |)) | こりゃいかん、
! 、| i,"(_ ,, 、, |" i
ヽ_| ` .|_/ 今朝は天出しを控えよう。
.|゙ 、,.--‐ 、,, |
.i ゙、 '  ̄ニ ̄ /|
| 、  ̄ ̄ , ' |
| i ` 、 ( , " |
| ` ー---― "| |
| | i |
..,,、;:::''::":: ̄ ̄`-.、
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
〃:::::::::::::::::::::::::::::::: ::::::::::::::::',
{/:::i:::i、::::i、:::ヽヾ\ ::::::::::::::::i
{!i::|ヘ:!\!\!≧三ミ:::::::::::::::i
{{,,,,ヾ、 ´"'¨せ ∨Cヽ:::! はい、
{ヘ´f;j} ´¨ るノ:::!
ヾ', i _ しヘ:::l わかりました。
', `" __ / ヾ
ヽ ´ ., / : /;;〉ヽー=¬
\ / ; /;;/タ://;;;;;;;;;
ヽ-ヘ::: /;;∠ク //;;;;;;;;;;;;
∨/;;;;∠ク i i;;;;;;;;;;;;;;
{ココ少′ l l;;;;;;;;;;;;;;
/ ̄ ! !;;;;;;;;;;;;;
皆が棚場の心太を片づけ、小屋に引き上げ始める。
.
478 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:10:00 ID:Cnt0v6QE0
ふと、やる夫は足を止めて、雪を見上げた。
.. ____
/ ― -\
. . / (●) (●)
/ (__人__) \ (細うにした寒天、この雪に晒したら、
| ` ⌒´ |
. \ / どななるのやろう……)
. ノ \
/´ ヽ
,.-''"~"''ー、_
ヽ< ,.-'" ~"'-、
>レ'~ \
/ , ,.;'' ' . V
/ ,.:''" ';
;' _,.-'"ミ ';
. ヒニゝ、 ハ ヒ´_,.-'''" .|
ヾ-t''〉 ;';;,,r'五ニ7 r'^';| おい、やる夫、
/~~/ y´ ~~""''-、 タ i
'; ( ノ ,_ ;i 'レ',イ 早く戻らないと凍えるぞ。
'i `t`"'っ ;i r-' '|
| トこニ-.,__、 ;; | .'i
| t--.,_,, r' .'i
'、 _,.-' .|
ゞ,二;;;;='''"" _,..-┴
|i~  ̄ __,.-''"~ |:;iii
仲間がやる夫に声をかける。
.
479 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:10:26 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/ ─ ─\ へえ、すぐ戻ります!
/ ⌒ ⌒ \
| ,ノ(、_, )ヽ | (ま、ええか)
\ トェェェイ /
/ _ ヽニソ, く
やる夫は頭を振りながら小屋へと引き上げた。
.
481 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:10:52 ID:Cnt0v6QE0
小屋に引き上げると、皆が心太に黙々と釘で穴を開けていた。
. _,,..-----‐イィィィ、 _,,......、
':::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ ,、 '゙. : : : : .`ヽ、
:::::::::/`¨¨¨从从リlノ、 /.; .; ; ; ; ; ; ; ; : . ヽ,
::::::::{ u ,,ィ l fン、;;;;:、::_;:;:;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;. i
:::::::::`7 ∠三彡''´ 丶 | <_;;;Tヾ )、;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;. i
::::::::::〈 ー=''" `''‐、 レ、 ';;;;lノjく `ー_''´⌒ニミ!
`ヽ::::::', u __ ノ . `l! 'シ,ニ'゙ ̄ ̄`ヾ:、`''ー`i、
.`>、ヽ::l ′l |l!,_ ,;'ヘ, ヾ:、 ``ャ- 、,
. { (} ヾヽ. i ⊂ニ< `ー| {{ い ゙;゙; ,`ヽ ヽ,
ヽヽ -、ヾl u イ . | ;'';,; ノ ,, ノ i i ', ゙、 ゙:、
::::`7''―、 ヽ ソ , ''" l< l | :'; ト ゙:、
:::::/ l\______..) j゙ ;'; |''へ、,!,! .::;:' !ソ 'ヾ!
゙"'' ‐.、 | ::::::::::::::_,,..-''´ i゙ ,';' | _ノノ ',ソソ ゙!
\l ::::/´ | ;' ィ;、 ,!=-‐'゙ . '!ソソ ゙!
ヽ /
'.,.ノ ,..-―――-.、
', ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ.__
:::i ,.-''"´ ̄ ̄`ヽ:::::::ヽ ヽ
. .:::l '.,:::::::', ',
.:::::,' ',::::::i ',
..:::::/ __ .',:::::| i
ヽ-、ヽヽ ',::::| l
_ } i .} i:::l |
`ヽ .| .lノ ヾヽ_ヽ
. i ヽj `''≡ \
ヽ
\ l /
\ ./ ./ _,,..-―――
.l l ヽ/,,.-''"::::::::::::::::::::::::
`¨¨´/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
.
482 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:11:21 ID:Cnt0v6QE0
____
/ u \
/ / \\ あ、あの、高和はん、
/ し (○) (○) \
| ∪ (__人__) J | これは一体何をしてはるんだすか?
\ u `⌒´ /
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ ん?
!ヘl;| '____` ,ィ '"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ ああ、やる夫は初めて見るのだったか。
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′
,rト、 ー_ ‐-‐ァ' /|
_../ i| \ 二" ,イ.:ト、
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
.
483 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:11:49 ID:Cnt0v6QE0
/;;;;;!゙`''~^~ァrr--'゙`'~´''ラヘ;;;;;;;;;;;!
|;;;;;;l 从リ |;;;;;;;;;;|
.|;;;/ ヽ |;;;;;;;;;|
|:::|∠ニ'==ァ 、====ニゝ〉;;;;;;|
/ | '´.旬`ヽ :::::´ 旬`丶 |/⌒.l
| r| `  ̄´'"l ` ` ̄´ ´ ト`l.|
l l .l l > /\
.ヽヽl .' / /|. \
.`/| ヽ ^,.- 、 ,.-、 l-'´ .| ',-,,_ 干す前の心太に、
_ -‐.../ ヽ -=ニニ| | | ヽ/ . | ∨ "''-,,
_,-‐ " / lヽ ー-|― | .ヽ―| /ヽ ∨ こう釘で穴を開けておくとな、
.-‐ ''"´,,、-‐ ''" . ./ | . \ l_ |/|_| |.、| .∨
./_,-‐ " / |. /⌒',--|. | / | / / ∨ 寒天の縮みが小さくなるんだ。
l / | ./⌒/ .\|_∨ .し `/| ∨
l,,、-‐――――-‐''"`"''ー-l. lヽ._.,  ̄ `,' l ∨
 ̄ ̄ヽ__ ヽ__| ̄ ̄ ̄) .,'./ /
. ̄ ̄ヽ \ . ̄/⌒l ̄ ̄´ `―――|/ / _
. ̄ ̄ l . ヽ | / ̄´/ `ヽ、 .|―――― ´ー'"
`ヽ、._____,.,-, l |―´ |ヽ-.´) l /
.l | .マ ..l / \ | ,,.-'´
`― ´ `lー――´"'' 、
.\ ヽ | `ヽ、
____
/ \
/三_',!`zx二 \
/ ´ー¨‐` ´ー¨‐'' \ …ホンマだすか?
| (__人__) |
\ ´ニニ` ,/
/⌒ヽ ー‐ ィヽ
.
484 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:12:20 ID:Cnt0v6QE0
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈 ああ。
! :l ,リ|} |. }
. {. | ′ | } 寒天ってやつは干すとどうしても縮みが出てしまう。
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ<
!∩|.}. '___゙` ./'__` f^| 均等に縮むんならまあいいんだが、
l(( ゙′` ̄'" f::` ̄' |l.|
. ヽ.ヽ {:. lリ 大体はバラバラに縮んじまうもんだから
. }.iーi ^ r' ,'
!| ヽ. ー===- / 凹んだり、角が取れたり、見栄えが悪くなる。
. /} \ ー‐ ,イ
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
! :l ,リ|} |. }
. {. | ′ | } 前々からどうにかしたいと思っててな、
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ<
!∩|.} ,.--、 / ,.--、f^| このやり方を試してみると、
l(( ゙′ f:: .|l.|
. ヽ.ヽ {:. lリ こいつがなかなか具合がいいんだ。
. }.iーi. ^ r' .,'
!| ヽ. ヽ ̄ ̄ 7 ./
. /} \ `二´ ,イ
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
.. ____
/ ― -\
. . / (●) (●)
/ (__人__) \
| ` ⌒´ | へぇー……
. \ /
. ノ \
/´ ヽ
.
485 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:12:55 ID:Cnt0v6QE0
,..-一ー''゙゙ ̄~゙'''ー- ..、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;. \
.,i";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.;;;ヽ
.|丶;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.!
l丶;;;;;;;/!マダ゙'''!゙'V┐;;;ii―=i,xri-、;;ヽ
|;;;;;;;;;;;,! ゙゙.!;lリ .!;;; ! 元は里の仲間たちに教わったもんなんだ。
|;;;;;;;;;│ !′ .!;;.l'
.l;; ∴/i;;;;ニッッxi〟 rニニ`-ニrl、! 隠し包丁、ってあるだろう、
]/'.l.| _ i' _,,,,,,_ i!│
,!゙ .川 .´ ‐ ,! ー i|‐} 食材にあらかじめ切れ目を入れておくってやつ。
ヽ ゝ ! !.|l゙
.'Lヽ , .l゙/ 仲間たちが鴨肉にあれをやっているのを見てな、
l'ァ.l ´゛.'" .|’
.リ ヽ .ー.... - .,/ こいつは寒天にも使えるんじゃないかってことになったのさ。
/'゙i .ヽ ..〟 ノ|
/゛ .i′ \ / ; |`'、
._..-''ア ll l .\、 ." .,/;;;;;;;;l.l \
` .. l゙ .!| ..l .`゙゙´ ;.,;;;;;;;| ! .゙ぐ- ..,,_
____
/ヽ /\
/(●) (●)丶
/::⌒(__人__)⌒:::uヽ
l |r┬-| l そ、そうなんだすか。
\ `ー'´ /
/ ヽ
し、 ト、ノ
| _ l
!___/´ ヽ___l
.
486 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:13:24 ID:Cnt0v6QE0
,. -‐-─-- 、
. / `ー、
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
! :l ,リ|} |. } こっちの連中は面白いぜ?
. {. | ′ | }
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ< 元々は俺も美濃志摩屋で修行したことを
!∩|.}. '"旬゙` ./''旬 ` f^|
l(( ゙′` ̄'" f::` ̄ |l.| そのまんまやってくつもりだったんだが、
. ヽ.ヽ {:. lリ
. }.iーi ^ r' ,' こいつら、そもそも寒天職人じゃなくて百姓だからな。
!| ヽ. ー===- /
. /} \ ー‐ ,イ こっちの思いもしないことを聞いてきやがるのさ。
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
/i |! i :;::;:::::::ト、 ヽー-
│ .| i l ノ ,' :i i
ノ |- ⊥.」__ /_,. -‐ | |
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;| 聞かれて考えてみると、
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ
!ヘl;| '____` ,ィ '"世ン 「ヽ 確かに、と頷かされることも多い。
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ そうしてるうちに、色々と工夫のしどころも出てきてな、
`| ^'='^ ム'′
,rト、 ー_ ‐-‐ァ' /| こいつもその工夫のひとつなのさ。
_../ i| \ 二" ,イ.:ト、
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
.
487 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:14:24 ID:Cnt0v6QE0
話を聞かされたやる夫は考え込んだ。
.. ____
/ ― -\ (そうか……)
. . / (●) (●)
/ (__人__) \ (思いついたことは何でも片っ端から試して、
| ` ⌒´ |
. \ / そこから糸口をつかむんが
. ノ \
/´ ヽ 高和はんのやり方なんや……)
____
/ \
/ ─ ─\
/ (●) (●) \ (さっきの雪に晒すやり方……)
| (__人__) |
./ ∩ノ ⊃ / (ちょっと試してみよか……)
( \ / _ノ | |
.\ “ /__| |
\ /___ /
.
488 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:14:43 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
489 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:15:05 ID:Cnt0v6QE0
その日の夜、やる夫はこっそりと棚場へ出向いた。
手には四角い心太の塊と天突き。
/ ̄ ̄ ̄\
/ \
/ ─' `ー \
| (ー) (ー) u. |
\. (__人__) /
/ ,__ __ .__ , ヽ
.| i_ _i
.(__ヨ=======コ___}
/ ̄ ̄ ̄\
/ \
/ ノ ' ヽ、 \
| (ー) (ー) u |
\ (__人__) /
/ `⌒´ ヽ
ヽ、二⌒)≠ | }
{__}(⌒ニノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
やる夫はよしずの上に心太を天突きで突いたものを広げていく。
ここまでは慣れた作業だった。
.
490 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:15:19 ID:Cnt0v6QE0
o ο 。
゚ ° O
O 。
◯ o °。 o
o
゚ ゜。 ◯
。 ゚ ° 。°。
O °。
o ο 。 ° o
ο O
。° 。 ゜ ゚゜ o
o ゜
O 。
◯ ゚°
゜ o ο O
o
牡丹雪が、今突いたばかりの心太の上にふわりふわりと降り積もっていく。
.
491 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:15:35 ID:Cnt0v6QE0
やる夫はそれをじっと見つめるだけで手は出さない。
____
/ \
/ \
/ ⌒ ー \ (よっしゃ、これでええ)
| (●) (●) |
\ (__人__) /
/ `⌒ ´ イ`ヽ、
, ' ` ̄ \
すっかり雪が心太を覆ってしまうまでやる夫はただ見つめていた。
.
492 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:15:59 ID:Cnt0v6QE0
やがて雪は止み、原村の凍てが本領を発揮する。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::。:::::::::::::::..☆ . :: . 。 : . .. ..:...。::::::::::。:::::::::::::::::::。::::::::::::::
::::。::::::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::゚:: : : ..:.. .. ..:.. .。. . .: :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::: : :。 ::.. 。.: . . : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::: :: : : . . . : : ..:。.: :::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::
::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::。::::: 。:. .. :☆. . : :::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::. .☆ .:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::..:.. .. .:::.::...:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::..:..:::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::::. . . . 。.::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::☆::::
::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 。. ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。:::::::::::::。::::::::::
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: . ..: ::::::::::::::::::::::。:::::::::::::::::::::::::::. .☆ .:::::::::::::::::::::::::。
 ̄`''--、__,,,_,,,,__,;;w--─--、___:::::::::::::。: . :.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::。::::::::::
_ ___ ____--─ー──~'''~`─-、._,,、w─''"" ̄  ̄ ̄`''--、__,,,_,,,,__,;;ー-‐''''"~~~
─''"~  ̄  ̄  ̄^ー-‐''''"~~~`‐-‐''~^ヘ,,__,, __ (;; ;: : ::::
:::: (;;; .; : :;;;::: ::;;;;;;::::::::::::::
:::::::::: (;;(;;;;;(;;;;;○;;;;;;;;;○;;;;;::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::: (;;(;○;;;○;;;;);;;○::::::::::::::
(;;;;○ゞil/;;;;);;;;;)
(;;;;| il|;;);;;;;;;;;
身を切るような寒さ。
.
493 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:16:12 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
‐ ─ \
( ( ●) \
(人__) |
`⌒´ /
`l \
l \
心太に降り積もった雪が固く凍りつくのを確認して、やる夫は小屋に戻った。
.
494 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:16:30 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
495 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:16:51 ID:Cnt0v6QE0
翌朝。
|
\ /
| /
\ |
/
-- - ○ ー _
/
/ \
/ |
:.:.. .:. ...:..::::::...::..:: .:: : .. .. . .. ,,、、,,,,;;;´"
...::..:::..:::.. . ..::...::.: .: . ... ,;;'":::.:.....::.::...
,.,, :.. . ..::...::.: .: . ... ,,.r'":::.:.....::.::....::...
;;;,;ヽ、 ,,、、-'';":`::::::.:.....::.::...:...,..::...
;;;;,';;;;ヽ;, ,..-''"::::::.:.:.:..:....::..::...:...,..:..:....::...::...
======================,;;r''"::::::.:.:.:..:....::..::...:...,.:...:...,..:..:....::...::...
;;;ii ;;;;;ii,;;;;;,ii.;;;;;ii.;;;;;.ii .;;;;;,ii.;;;;;( ::::::.:.:.:..:....::..::...:...,:...:...,.,,..:..:....::...:..:....::..
''_'''''_'''_'',.'''_''''_''_'''''_'',.'''_''''_''_''''',;;;"''ー-l、,,'""'゙,゙'""'"、.wiルv,iルwviw.:
__- =_≡ _- _-_=_ = - _-_ -_ =≡_-;`--_ _、., _,__  ̄`¬.,v:.:
^ _ _ -_ ^ _ _=_ -_^__ =_ - _ - ≡ Y,.,lji,; 丱
=__-_ -__= - _-_ -_ =_ -_ ^__-_= -ー"`゙ i ,.,...ユiW
_ -_ __ -_^__ =_ -_ ^__ _,,、。"`゙ ::: ::: ∥,,::iリv,i
_ = _ -_ _ _ = __ __,,、。-ー''"`゙::: 」:.::.vノiVi
_,,.,..、。v-ー''"゙~ :: ' ::: : ::: ::: :: :::: :: ::: 「;;,,;;:yハiW
`"゙ :::: :: :::' ,:: :::: : ::: : /,:.;,:.;,:.ナwy
雪も無く、気持ちの良い晴天となった。
.
496 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:17:07 ID:Cnt0v6QE0
棟梁である高和の号令のもと、一斉に天出し作業が始まる。
,,..-―――-..,,
..,,、;:::''::":: ̄ ̄`-.、 . /:::::::::::::::::::::::::::::::\
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、 /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
〃:::::::::::::::::::::::::::::::: ::::::::::::::::', . i:::::::|`"'''―――'''"´|:::::i
{/:::i:::i、::::i、:::ヽヾ\ ::::::::::::::::i |:::::/ ヽ:::|
{!i::|ヘ:!\!\!≧三ミ:::::::::::::::i /ヽ:|≡≡≡ ≡≡≡|/、
{{,,,,ヾ、 ´"'¨せ ∨Cヽ:::! i .| ´旬 ` i ´旬` | i
{ヘ´f;j} ´¨ るノ:::! ヽ |  ̄ ',  ̄ | /
ヾ', i _ しヘ:::l ... `|. i ( _ノ .i´
', `" __, ./ ヾ . . |、 u. __ __ ,'
ヽ  ̄ ., ./ : /;;〉ヽー=¬ .. ,-| \ ー ,.'|_
\ / ; /;;/タ://;;;;;;;;; / | \ / .| `ヽ、__
ヽ-ヘ::: /;;∠ク //;;;;;;;;;;;; -''"´i | >―< .| i `"''-
:N`‐' ヽ 、、、、、、,,,,,
> , ,ィ , -ァ , . l ヾjii||||||!!!ミミ、,
(rァ ト((イノノ人((∠イノノ、トゝ | ,r'"ヾii!r'"´``ヾ
(,イ {∠二ニニア ヾニニニ> | / ヽ
レ1 ゙´_しベ,ゝ f "じ ^'' |^! ,!,,._ ,,、-‐ !
{ l|  ̄":::| `  ̄ ` |! } {ニー-、 ゞ,,,、-ー'''7⌒!
ヽ{| ,;j,, |}/ ハ<kァ)j ;:. ;:kァ_"´ ,ヘ,!
N ヾ ' ) ル1 l j,' ,! !;::_ `, /,イ
, J ト、 -=ニニ=- /| し; ヾ! ^^´ ; r' l}
ゝ | :ヽ. ー一 ,.イ | く ! ‐‐ 一 ,イ リ
_レヘ(| ;;;\ _/ j トjノ_ ト、 ´ ̄` ,イ ! i
´ `| ;;  ̄ ,' j ` ー‐''´/ ,' ト、
.
497 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:17:23 ID:Cnt0v6QE0
棚場の隅に昨夜の心太を見つけて高和が尋ねる。
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 rェ----、ミ;リ
!ヘl;|. ぐ世!゙`` ,ィ '"世ン 「ヽ ん?
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ やる夫、こいつはどうしたんだ?
`| ^'='^ ム'′
.ト、. -‐‐ ‐‐- /|
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
____
/ \
/ ⌒ ⌒\ へえ、
/ ( ●) ( ●)ヽ
l ⌒(__人__)⌒ | 雪がかぶるままにしてみたんだす。
\ ` ⌒´ /
/ ヽ
.
498 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:17:45 ID:Cnt0v6QE0
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- ..,,_ ,,.-‐'''' ミ;リ
!ヘl;| ,.=≡=、` ,´ィ,.=≡=、「ヽ ほほう。
!(,ヘ! '" |:::.` ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ お前たち、雪の布団を着せてもらったんだな。
`| ^'='^ ム'′
.ト ヽ二二二フ .,イ
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (∧) (∧) \
| (__人__) | へえ。
\ `⌒´ ,/
/ ー‐ \
まるで人に語りかけるような高和の物言いに、やる夫が笑みを浮かべる。
.
499 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:18:03 ID:Cnt0v6QE0
___
/ \
/ \
/ ノ ヽ、_ \ 寒天は水気を嫌うもんやさかい、
| ( ●) (● ). |
\ l^l^ln__人__) / 無駄に終わるかもしれんのだすが……
/ヽ L⌒ ´
ゝ ノ
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ
!ヘl;| '____` ,ィ '"世ン 「ヽ いやいや、
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ やってみなけりゃ分からんさ。
`| ^'='^ ム'′
,rト、 ー_ ‐-‐ァ' /|
_../ i| \ 二" ,イ.:ト、
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
.
500 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:18:22 ID:Cnt0v6QE0
お天道さまが昇り始めると、心太の周囲の雪からまず融け始める。
i
\ i
\ | /
\ /
‐‐‐‐ー── ○ -─
/ \.∧
/ / ∨ /\
/ / \ | |
\/
\
ニニ ーーーーーニニニニニ从 从
从 r zzzzzzzzzz┐ 从ミ 从 从从
彡ミミ /\\\\\\\ 爻乂 爻彡ミ 从 彡ミ 从 从
爻乂ミ ∠ r‐┐;\\\\\\\r zzzz┐从 爻ミ 爻 彡ミ 彡ミ
爻,彳爻 | ̄ ̄ ̄「「「「「「「「「「「「「 \\\\ミ 爻ミ 爻乂ミ 爻ミ
爻 爻爻乂 田] ll l l l l l l l l l l l |  ̄「「「「「「从 从ミ 从爻从ミ
爻 乂乂乂爻 ll l l l l l l l l l l l |三]l l l l l彡爻爻乂 乂ミ爻爻爻
雪がすっかり融けてから、中で凍てた心太が陽光の恩恵を受ける。
.
501 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:18:36 ID:Cnt0v6QE0
夜になると、また冷気に晒されて凍る。
。 ::::: * *
::::;;:::: 。 o 。 o ゚ ゚
::::: 。 。 。
゚ . ゚ :: . ゚ :: +
* * ::;;:: ゚ * ::;;:: ゚ ; ;
::: 。 ゚ ::;;;:: ゚ ::;;;:: ` : ` :: :::;
* ::;;;: o + :: :::::
:: , ; ; ::::; ::::: 。 . ゚ ::
. 。 o ゚ . ゚ :: * ::;;:: ゚
。 . * ::;;:: ゚ 。 ゚ ::;;;::
. ゚ :: . 。 ゚ ::;;;:: * ::;;;:
* ::;;:: ゚ ; * ::;;;: ; ; ::::;
゚ ::;;;:: ` :. ; ; ::::; o ゚
o + :: , ; o ゚ . 。
夜に凍て、昼に乾く。
そんな朝夕を繰り返すこと七日。
.
502 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:18:52 ID:Cnt0v6QE0
*☆*。 。*☆*。 . 。*☆*。 。*☆*
゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜
*☆*。 。*☆*。 . 。*☆*。 。*☆*
゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜
*☆*。 。*☆*。 . 。*☆*。 。*☆*
゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜
*☆*。 。*☆*。 . 。*☆*。 。*☆*
゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜ ゜*o。+*゜
麺ほどの太さだった心太は、細く、軽くなり、
よしずの上できらきらと輝く絹糸のような寒天となった。
.
503 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:19:17 ID:Cnt0v6QE0
それを水で戻し、軽く絞って鍋に入れて煮溶かす。
/ ̄ ̄ ̄\
/ \
/ ⌒ ⌒ \
| (●) (●) |
\ (__人__) /
/|`ー‐‐--‐‐‐―'|\ (なんや今までと感じが違うな)
/\|______|| _,ヽ
< つ\ ,-し、)
―ヽヲ \ニフ `-" ――
[]((" ̄。 ̄ ゚̄ ̄))[]
| `ー------―"|
.
504 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:19:32 ID:Cnt0v6QE0
脇から鍋を覗き込んだ高和が嬉しそうに言う。
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ
!ヘl;| '____` ,ィ '"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ 綺麗に溶けたじゃないか、やる夫。
`| ^'='^ ム'′
,rト、 ー_ ‐-‐ァ' /|
_../ i| \ 二" ,イ.:ト、
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
____
/⌒ ⌒\
/ (⌒) (⌒)\
/ ::⌒(__人__)⌒::: \
| |::::::| ,---、 へえ!
\ `ー' しE |
/ l、E ノ
/ | |
( 丶- 、 ヽ_/
`ー、_ノ
やる夫も期待に胸を躍らせる。
.
505 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:19:46 ID:Cnt0v6QE0
しばらく待ち、常温で固まったそれを指で押す。
∩_
〈〈〈 ヽ
____ 〈⊃ }
/⌒ ⌒\ | |
/( ●) (●)\ ! !
/ :::::⌒(__人__)⌒:::::\| l
| |r┬-| | / しっかり固まったみたいだす。
\ ` ー'´ //
/ __ /
(___) /
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
! :l ,リ|} |. }
. {. | ′ | }
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ<
!∩|.}. '___゙` ./'__` f^| よし、切り分けてみよう。
l(( ゙′` ̄'" f::` ̄' |l.|
. ヽ.ヽ {:. lリ
. }.iーi ^ r' ,'
!| ヽ. ー===- /
. /} \ ー‐ ,イ
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
高和が包丁を差し出す。
.
506 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:20:05 ID:Cnt0v6QE0
やる夫は高和から包丁を受け取り、固まった寒天を切り分ける。
____
/ \
/ \ /\
/ (○) (○) \
| .u (__人__) | どうぞ、高和はん。
./ ∩ノ ⊃ /
( \ / _ノ | |
.\ “ /__| |
\ /___ /
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- .,,_ ,,..-‐'''' ミ;リ
!ヘl;|. ぐ世!゙` ,´ィ'"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ おう。
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′
.ト、. -‐‐ ‐‐- /|
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
二人は切り分けた寒天を緊張の面持ちで口へと運ぶ。
.
507 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:20:24 ID:Cnt0v6QE0
寒天を口に入れ、咀嚼した瞬間、やる夫は瞠目した。
___
/\:::::::::/\.
/:::<◎>:::<◎>:::\
/::::::::⌒(__人__)⌒::::::\ な、なんやこれ!
| ` ー'´ u |
\ u ::::: /
/ ::::::::::::::::::: :巛 ̄ヽ
/ , :〈⊃ ̄( .}:
,..-一ー''゙゙ ̄~゙'''ー- ..、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;. \
.,i";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.;;;ヽ
.|丶;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.!
l丶;;;;;;;/!マダ゙'''!゙'V┐;;;ii―=i,xri-、;;ヽ
|;;;;;;;;;;;,! ゙゙.!;lリ .!;;; !
|;;;;;;;;;│rニ;; ..,、 !′ ._.. -;;. !;;.l'
.l;; ∴/ _`゙''= ''! -!「二.., l、! お、おい、やる夫、
]/'.l.| l ノ'' .ノ .│.ノ .!、l
,!゙ .川 `゙゙゙゙″- │''' ̄ l l こいつは……
ヽ ゝ | ,!.|l゙
.'Lヽ ,! l./
l'ァ.l ゛.゛' |’
.リ ヽ エニニニ‐. ,/
/'゙i .ヽ ........ ,┤
/゛ .i′ \ / ; |`'、
._..-''ア ll l .\、 ." .,/;;;;;;;;l.l \
` .. l゙ .!| ..l .`゙゙´ ;.,;;;;;;;| ! .゙ぐ- ..,,_
こちらの歯を押し返してくるような弾力。
無理に噛み締めるとぷりぷりとした食感が心地よい。
.
508 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:20:47 ID:Cnt0v6QE0
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
! :l ,リ|} |. }
. {. |,.へ .:ヽ '/ ,ヘ }
レ-、{ ゞミ≡=ァノj!}=夭''´K
!∩|.} ゙゙匈゙` ...:::::/''匈 / f^| この、噛み応え……
l(( ゙′` ̄'"〃 f::` ̄ |l.|
. ヽ.ヽ {:. lリ こんな寒天、初めてだ……
. }.iーi ^ r' ,'
!| ヽ. ,∠ニ= /
. /} \ ー‐ ,イ
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
____
/ \
/ _ノ ヽ__ .\
/ (○)!i!i(○) \
| (__人__) u | た、高和はん……
.\ )t-ツ /
/ ⌒´ \
\_(__) i\(__)
| |
.
509 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:21:10 ID:Cnt0v6QE0
_,,..-―――‐-..,,_
,..-''"::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`''-、
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/::::,..へ、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
/::::/ `^~ァrr,.、_,,..-ァ=彡ヘ:::::::::::::::::',
/::::/ ,リ|} ヾ::::::::::::::i
. l::::/ ,ィ圭fx.、 i::::::::::::::l
/´.l ´ ̄ヾミメ、 _,,,.、 |::::::::::::,'
| h.| '、・)`ヽ`` ィf斗芸圭斗ゝ .l::::::::::/
| リ|  ̄ ‐' ヾ ′、´・)`ヽ ,'´`.y'
/::ヽ_| .::} `  ̄ .,'/、/ すごいものを作りやがったな、やる夫。
. _,,..从リリ,| ..:::/ i //ノ/
r''" / ./ l ヾ_ツ U /_//、 お前、やはりただもんじゃない。
_../ // ', , - ..,,_ /::::::/ `''-..,,_
_,,..-'" / / ', ヽ.__ ) ./i从リ
/ / .\ // .| ∧
. / l \ < ./ | ∧
/ | | \__ ..< / .| ∧
. / .| | / | .∧
高和が目を剥いてやる夫の肩を揺さぶる。
.
510 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:21:29 ID:Cnt0v6QE0
やる夫はまだ半信半疑だった。
____
/ u \
/ \ /\ 高和はん。
/ し (○) (○) \
| ∪ (__人__) J | この、この寒天でええんだすやろか?
\ u `⌒´ /
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;! '~ "~ `i||i" '' `ヘ;;;!
|;;;| ヽ` u ミ;;;| いいも悪いもない。
_ゞ;!,-;;;;;;;"フノ ヾ`;;;ヽ 、ミ;リ
!ヘl;|.,,_==-、く` ,>゙-== 、「ヽ こんな寒天、少なくとも俺は知らない。
!(,ヘ!  ̄'" |ミ.' ̄" , ドリ
ヾ、! !ミ ,レソ どえらいことだ。
`| ^'='^ ム'′
. ト、 、,.-‐ 、,, /|
i| \ ' ニ イ.:|
,イi| ゙、\ ( /リ.:;ト、
ノ :.:i| ゙、 `ー─''゙:::;:'::::::!:::\
.
511 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:21:48 ID:Cnt0v6QE0
____
/ ノ \\
/ (●) (●)\
/ ∪ (__人__) \ で、でも高和はん。
| ` ⌒´ |
\ /⌒)⌒)⌒) //⌒)⌒)⌒) これは偶々出来たもんだす。
ノ | / / / (⌒) ./ / /
/´ | :::::::::::(⌒) ゝ ::::::::::/ これと一緒のもんが出来るかどうか……
| l | ノ / ) /
ヽ ヽ_ヽ /' / /
ヽ __ / / /
_,..-ー;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;=- 、,,
__.ィ´;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`ヽ
/ ,゙- .,;;;;;, -.,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ハ
,,‐''''¨"" /;;;;;/,,,,/l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l
| ,..-ニ-'´ .l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l
l .:l /´ _.ィ´;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;,..-ー、;;l
l .:y' .:/" `"''_,,..-.''7ー''"´ l;;;;!
. / .' .::/;; _.ィ´ ./ l;;;;l
/ .::∠.'" _,..-'"´ ,,,, -, l;;;;l
. ,r' ´ ,.ィ´,,, , -‐ニニ",,,,,/ .l;;;, 、
/ <´////ヽ ィ´"´ヒニ;ン レ,, l
. /  ̄ ミ.,l `¨ リ" ,' そう、そいつだ、やる夫。
/ ./777 //l レ ./
.″ ////l /'/,l .l /
/////`¨///, l'
,..-'" .l//////// '' /l
/ /!、//// __ _ / ト 、
/ /////、//, ´ ..... ` ,イ ヽ `丶、
.;;;l ////l//l/` 、 _.ィ´ l: ヽ ``''=''7
,;;l ,..''´//////レl///`ー- -‐'7/ l; ハ ト 、
,;;;;l'///////////l/l/////////, .l; l ヽ ``
,;;;;;l///////,l/////l/"/////ヽ// / l ヽ
高和の顔つきが変わる。
.
512 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:22:06 ID:Cnt0v6QE0
/..:::::::::::::::::::::::::::..ヽ、
(,、:::::::::::_::::_,、::::::::::::::..゙:、
.l `リ ´ }::::::::::::::::::i
._ 、__,、 〈:::::::_::::::::::|
!) ヘラヾ´ ゙! /ベ!::::::|
.ソ ``` i ソ,iノノ::::::|
ヽ,- ! シ_,イ、:::::l
i==- イ ヾヘ
, ゝ. ̄ _,.ィ i 糸口は、雪だな。
, ´ ゙'ーイシ″ ,
/ 、 \ヾ /
i ` \,メ--─
ハ. y /
/ i ミ
____
/::::::::: u\
/ノ└ \,三_ノ\ ,∩__
/:::::⌒( ●)三(●)\ fつuu
|::::::::::::::::⌒(__人__)⌒ | | | す、すぐ採ってきます!
\::::::::: ` ⌒´ ,/_ | |
ヽ i 丿
/(⌒) / ̄ ̄´
/ / /
やる夫は空の桶を下げて表に駆け出した。
.
513 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:22:24 ID:Cnt0v6QE0
___
/\ / \
/(●) (●.) \
/ (__人__) \
| |::::::| .|
\ l;;;;;;l ,/ 雪、採ってきました!
/ヽ `ー´ ィ⌒ヽ
rー'ゝ 〆ヽ .)
ノヾ ,> ヾ_ノ,ヽ}
ヽ ヽ| ヽ_ノ
___ _
-‐''"´ ̄ ` `''ヽ=、
,.‐''"´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
r(:::::::::::::::::,、_ィ::::::::::::::::::::::::::::::::::
ゞ, rr~ヅ ミ:::::::::::::::::::::::::::::::::
フハ ミ::::::::::::::::::::::::::::::
. l __,,. -─¬,〈:::::::::::::::::::::::::::::: よし、
〉゙゙`'''Tjフ ̄ ヽ::::::,ィ ,、ヽ:::::::
. / ,.‐'" }:::/ /ヽ ハ::::::: 昨夜と同じことを試してみよう。
/.. "´ 2ノ/ l:::::
. ヽ.ニ,` __/ :l::::
. 'ーr_‐; .ィ l:::
〈.. /:{ ヽ
`} /:: ! i
丶、,、. イ:::::: !
高和が心太を突き、やる夫がそれに雪を被せた。
.
514 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:22:41 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
515 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:23:03 ID:Cnt0v6QE0
深夜。
。 ::::: * *
::::;;:::: 。 o 。 o ゚ ゚
::::: 。 。 。
゚ . ゚ :: . ゚ :: +
* * ::;;:: ゚ * ::;;:: ゚ ; ;
::: 。 ゚ ::;;;:: ゚ ::;;;:: ` : ` :: :::;
* ::;;;: o + :: :::::
:: , ; ; ::::; ::::: 。 . ゚ ::
. 。 o ゚ . ゚ :: * ::;;:: ゚
。 . * ::;;:: ゚ 。 ゚ ::;;;::
. ゚ :: . 。 ゚ ::;;;:: * ::;;;:
* ::;;:: ゚ ; * ::;;;: ; ; ::::;
゚ ::;;;:: ` :. ; ; ::::; o ゚
o + :: , ; o ゚ . 。
.
516 名前: ◆8epcM/V4rs[sage] 投稿日:2014/04/28(月) 22:23:59 ID:Cnt0v6QE0
やる夫と高和は棚場の寒天を見ていた。
一方に雪の布団を被せた心太、もう一方はただ突いただけの心太。
\:r::: ::ハ: :l . ,ィ __ ヽ . . . . . . . . - 、_: ::::: ::
|:: :::l ヽ{ ィ≦ ‐' . . .. . . .. . . . . . . . . . `ヽ : :
ヽ: :{ \ // _ _ . . . . . . .. . . . . . . . . . |: :::
\l //_ -_ニ-=rア. . . . . . . . . . . . . . . . .l:: :
l\_,イ/_テ_ィ ‐^ヽ::_ノ' . . . . . . . . . . . . . . . . l: :
L ´ ヽ- . . . . . . . . . . . . . . . .l:
`ヽ . . . . . . . . . . . . . . . .
/ . . . . . . . . . . . . . . . .
/ . . . . . . . . . . . . . . .
. / . . . . . . . . . . . . . . . やる夫、こいつを見てみろ。
/ . . . . . . . . . . . . . .
/ . . . . . . . . . . . . . .
. ノ _ -ァ . . . . . . . . . . . . .
ヽ=-ー  ̄了 . . . . . . . . . . . .
| _ -‐ ` . . . . . . . . . . . .
`` r . . . . . . . . . . .
L_ ____ . . . . . . . . . .
T` =-' . . . . . . . . .
|
____
/ \
/ ヽ、 _ノ \
/ (●) (●) \ n
| U (__人__) l^l.| | /)
\ |i||||||i| /| U レ'//) へえ、どっちもかちかちに凍ってます。
γ⌒ ` ー'´ ノ /
i j rニ ノ
ヽ、 l !ヽ、_,__/
.
517 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:24:21 ID:Cnt0v6QE0
/..:::::::::::::::::::::::::::..ヽ、
(,、:::::::::::_::::_,、::::::::::::::..゙:、
.l `リ ´ }::::::::::::::::::i
._ 、__,、 〈:::::::_::::::::::|
!) ヘラヾ´ ゙! /ベ!::::::|
.ソ ``` i ソ,iノノ::::::|
ヽ,- ! シ_,イ、:::::l そうだ。
i==- イ ヾヘ
, ゝ. ̄ _,.ィ i だが、このふたつには
, ´ ゙'ーイシ″ ,
/ 、 \ヾ / なにか違いがある筈なんだ。
i ` \,メ--─
ハ. y /
/ i ミ
____
/ \
/ \ / \
/ (●)i!i!(●) \
| u , (__人__) | 味、見てみます。
\ .`⌒´ 〆ヽ
/ ヾ_ノ なんぞわかるかも知れへん。
/rー、 |
/,ノヾ ,> | /
ヽヽ〆| .|
そう言って、やる夫は双方を口に入れて咀嚼する。
.
518 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:24:55 ID:Cnt0v6QE0
ふたつの心太には、はっきりとした違いが感じられた。
____
/ \ 高和はん!
/ _ノ ヽ__ .\
/ (○)!i!i(○) \ こっちの雪を被ってたほうは、
| (__人__) u |
.\ )t-ツ / まだ芯の方が凍ててまへん!
/ ⌒´ \
\_(__) i\(__) 雪を被せてへんほうは芯までかっちかちだす!
| |
___ _
-‐''"´ ̄ ` `''ヽ=、
,.‐''"´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
r(:::::::::::::::::,、_ィ::::::::::::::::::::::::::::::::::
ゞ, rr~ヅ ミ:::::::::::::::::::::::::::::::::
フハ u. ミ::::::::::::::::::::::::::::::
. l ヒ¬‐- ..,,,__.〈::::::::::::::::::::::::::::::
〉゙゙`'''T::jナ ̄ .ヽ::::::,ィ ,、ヽ::::::: なに!?
. / ,.‐'" }:::/ /ヽ ハ:::::::
/.. "´ 2ノ/ l:::::
. ヽ.ニ,` U __/ :l::::
. 'ーr_‐; J ィ l:::
〈.. /:{ ヽ
`} ι /:: ! i
丶、,、. イ:::::: !
高和もやる夫に倣い、寒天を口に含む。
.
519 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:25:17 ID:Cnt0v6QE0
そして、得心したように頷く。
___ _
-‐''"´ ̄ ` `''ヽ=、
,.‐''"´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
r(:::::::::::::::::,、_ィ::::::::::::::::::::::::::::::::::
ゞ, rr~ヅ ミ:::::::::::::::::::::::::::::::::
フハ ミ::::::::::::::::::::::::::::::
. l __,,. -─¬,〈::::::::::::::::::::::::::::::
〉゙゙`'''ニ二 ̄ ヽ::::::,ィ ,、ヽ::::::: そうか……
. / "" U }:::/ /ヽ ハ:::::::
/.. "´ 2ノ/ l::::: そういうことだったのか……
. ヽ.ニ,` __/ :l::::
. 'ーr‐- .ィ l:::
〈.. /:{ ヽ
`} /:: ! i
丶、,、. イ:::::: !
___
/_ノ ヽ\
/ (○) (○) \
/ u (__人__) \
| |i!i!i!i!| u | 高和はん!
\ u |;;;;;;;;;| /
/ `⌒´ \ なんぞ分からはったんだすか!?
(<<<) (>>>)
|、 i、 ,i /
ヽ_/ ヽ__/
| |
.
520 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:25:57 ID:Cnt0v6QE0
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
! :l ,リ|} |. }
. {. | ′ | }
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ<
!∩|.}. '___゙` ./'__` f^| いいか、やる夫。
l(( ゙′` ̄'" f::` ̄' |l.|
. ヽ.ヽ {:. lリ 寒天は芯から凍ってしまってはダメなんだ。
. }.iーi ^ r' ,'
!| ヽ. ー===- /
. /} \ ー‐ ,イ
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
___
/ \
/ _丿;;;;ヽ_ \
/ (○) ;; (○) \ どういうことだす?
| (__人__) u .|
\ |i!|i!|| /
/(<<<) .`⌒´(>>>)\
.
522 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:27:34 ID:Cnt0v6QE0
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- .,,_ ,,..-‐'''' ミ;リ 俺がこれまで作ってきたものもそうだが、
!ヘl;|. ぐ世!゙` ,´ィ'"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ いい寒天って奴は、外の肌からゆっくりと凍って
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′ できるもんなんだ。
.ト、. -‐‐ ‐‐- /|
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
/ ̄ ̄ ̄\
/ \
/ ─ ─ ヽ 外の肌から凍る……
| .u (○) (○) |
\ ∩(__人/777/
/ (丶_//// \
.
523 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:28:04 ID:Cnt0v6QE0
,..-一ー''゙゙ ̄~゙'''ー- ..、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;. \
.,i";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.;;;ヽ
.|丶;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.!
l丶;;;;;;;/!マダ゙'''!゙'V┐;;;ii―=i,xri-、;;ヽ
|;;;;;;;;;;;,! ゙゙.!;lリ .!;;; ! そうだ。
|;;;;;;;;;│ !′ .!;;.l'
.l;; ∴/.`-ニニ;;;;x, ' wr=ニ`-'.|、! この糸寒天はそれで無くとも細いから、
]/'.l.| " l、.!
,!゙ .川 `”´丶 │.'' ̄´ .l l どうやったって芯から凍ってしまう。
ヽ ゝ | !.|l゙
.'Lヽ , l゙/ だが、雪を被せることで芯が冷気から守られて
l'ァ.l .゛.'" .|’
.リ ヽ .-- -- ,/ 肌から凍ることが出来る。
/'゙i .ヽ ..y. .ノ|
/゛ .i′ \ / ; |`'、
._..-''ア ll l .\、 ." .,/;;;;;;;;l.l \
` .. l゙ .!| ..l .`゙゙´ ;.,;;;;;;;| ! .゙ぐ- ..,,_
____
/ \
. / \
. / \ / \
| .u (●) (●) | この雪が、守ってるんだすか……
. \ (__人__) /
. ノ ` ⌒´ \
/´ ヽ
.
524 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:28:37 ID:Cnt0v6QE0
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- .,,_ ,,..-‐'''' ミ;リ もちろん、お前の考えた草割りがあっての話だがな。
!ヘl;|. ぐ世!゙` ,´ィ'"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ あの腰と歯ごたえを生んだ理由は、
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′ 雪を被せたことによる凍り方の違いにある、とみた。
.ト、. -‐‐ ‐‐- /|
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
____
/ \
/ \ / \
/ (●)i!i!(●) \ な、なるほど!
| u , (__人__) |
\ .`⌒´ 〆ヽ (高和はん、たったこれだけのことで
/ ヾ_ノ
/rー、 | こないなことまでわかるやなんて……)
/,ノヾ ,> | /
ヽヽ〆| .|
見つけた糸口をつぶさに観察し、理由を探る。
ただ一度の偶然を、永続する成果に変える ― 高和の底力を垣間見たように思った。
.
525 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:29:06 ID:Cnt0v6QE0
高和は難しい顔で続ける。
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;! '~ "~ `i||i" '' `ヘ;;;!
|;;;| ヽ` u ミ;;;|
_ゞ;!,-;;;;;;;"フノ ヾ`;;;ヽ 、ミ;リ 問題は、雪だ。
!ヘl;|.,,_==-、く` ,>゙-== 、「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |ミ.' ̄" , ドリ このあたりじゃ、めったに雪が降ることは無い。
ヾ、! !ミ ,レソ
`| ^'='^ ム'′ 糸寒天を作り続ける条件が揃わない。
. ト、 、,.-‐ 、,, /|
i| \ ' ニ イ.:|
,イi| ゙、\ ( /リ.:;ト、
ノ :.:i| ゙、 `ー─''゙:::;:'::::::!:::\
|ヽ/|_
.\ /
___ |__>
/ヽ、 _ノ\
/ (○) (○)\ た、高和はん!
/ (___人__) ..\
| u ノ ヽ, | 雪やったら、作れます!
.\ (/⌒ノ´フ ./
. .> . ̄ ̄´ <.
.
526 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:29:33 ID:Cnt0v6QE0
〃 i,
r' ィ=ゝー-、-、、r=‐ヮォ.〈
! :l ,リ|} |. }
. {. | ′ | }
レ-、{∠ニ'==ァ 、==ニゞ<
!∩|.} ‐┰ .‐┰ f^| 雪を、作る?
l(( ゙′u ..|l.|
. ヽ.ヽ {:. lリ 何をバカげたことを……
. }.iーi ^ r' ,'
!| ヽ. ー===- /
. /} \ ー‐ ,イ
__/ ∥ . ヽ、_!__/:::|\
___
/ \
,---、 \, 三_ノ \―、
.l l (●) (●) \ | バカげたことと違います!
| | (__人__) | |
.| | |!!il|!|!l| / / 雪は、作れるんだす!!
ゝ |ェェェェ| ノ
\ /
/ |
/ |
.
527 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:30:04 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \ 私が幼い頃に熱を出した時、
/ \ / \
/ (●)i!i!(●) \ 母親が氷を削って、
| u , (__人__) |
\ .`⌒´ 〆ヽ 雪にしてくれたことがおました!
/ ヾ_ノ
/rー、 | 氷は刃物で削ると、
/,ノヾ ,> | /
ヽヽ〆| .| 雪みたいになるんだす!
,..-一ー''゙゙ ̄~゙'''ー- ..、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;. \
.,i";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.;;;ヽ
.|丶;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.!
l丶;;;;;;;/!マダ゙'''!゙'V┐;;;ii―=i,xri-、;;ヽ
|;;;;;;;;;;;,! ゙゙.!;lリ .!;;; !
|;;;;;;;;;│rニ;; ..,、 !′ ._.. -;;. !;;.l'
.l;; ∴/ _`゙''= ''! -!「二.., l、! そ、そうか、氷か!
]/'.l.| l ノ'' .ノ .│.ノ .!、l
,!゙ .川 `゙゙゙゙″- │''' ̄ l l 氷だったら、
ヽ ゝ | ,!.|l゙
.'Lヽ ,! l./ 真夜中に水桶を放り出しておけば
l'ァ.l ゛.゛' |’
.リ ヽ エニニニ‐. ,/ いくらでも作れる!
/'゙i .ヽ ........ ,┤
/゛ .i′ \ / ; |`'、
._..-''ア ll l .\、 ." .,/;;;;;;;;l.l \
` .. l゙ .!| ..l .`゙゙´ ;.,;;;;;;;| ! .゙ぐ- ..,,_
.
528 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:30:34 ID:Cnt0v6QE0
___
:/\:::::::::/\:
:/:::<◎>:::<◎>:::\:
:/::::::::⌒(__人__)⌒::::::\: (作れる……!)
:| ` ー'´ u |:
:\ u ::::: /: (あれと同じもんをもういっぺん!!)
:/ ::::::::::::::::::: :巛 ̄ヽ:
:/ , :〈⊃ ̄( .}:
その予感が身体中に満ちて、やる夫は膝ががくがくと震えだすのを感じた。
.
529 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:31:05 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
530 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:31:48 ID:Cnt0v6QE0
翌日から、やる夫と高和は桶を張った氷を手に、棚場に立った。
予め削った氷を使うよりも、その場で削ってかける方が良い、というのは直ぐにわかった。
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- .,,_ ,,..-‐'''' ミ;リ
!ヘl;|. ぐ世!゙` ,´ィ'"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′
.ト、. -‐‐ ‐‐- /|
/ ̄ ̄ ̄\ i| \ === ,イ.:|
/ \ .,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
/ \ / \ .`ー─''゙
| (○) (○) u. |
\. (__人__) /
/ ,__ __ .__ , ヽ
.| i_ _i
.(__ヨ=======コ___}
あとは、どういう状態の心太にかけるのか、どれほどの量をかけるのか、細かい試みを繰り返す。
.
531 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:32:17 ID:Cnt0v6QE0
. l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
. |::l`''~^~ァrr~~ー..,,_:::::::::::::::,、_ィ:::::::::::::::::::::::::::
. |:| ノリ  ̄ ̄´ ミ ::::::::::::::::::::::
!| ミ:::::::::::::::::::::::
',ミヽ 〈::::::::::::::::::::::
',rヾミx、 l:::::::::::::::::::::
i でツ、 =≡三三三三 |:::::::::::::,..--
l `ー } |:::::::/ ,.-
∧ / '"''==='' }::::/ <ヽ/
_,,..∧. / ノノリ `/
_,,..-''":./.:∧ゝ‐-、 _/
_ _ ___ : : : :/: : : :.∧ /
/ ) ) )/ \ /\ :/: : : : : : :.∧ -..,,_ _、 /
{ ⊂)(●) (●) \ .: .:`"''‐-..,,_: : : ∧ 、_ ̄ ̄ ̄ _,,,,.. -''"´
| / ///(__人__)/// \ : : : : : : : : :`''‐、:∧  ̄ __,,,...-‐''''"´: : : : : : : : : :
! ! `Y⌒y'´ | : : : : : : : : : : : : ヽ∧ \: : : : : : : : : : : : : : : : :
| l ゙ー ′ ,/ : : : : : : : : : : : :. <: `''‐--‐< \: : : : : : : : : : : : : : :
| ヽ ー‐ ィ : : : : : : : : : : : : : : :.\: : : : : :| ヽ \: : : : : : : : : : : : :
| / | : : : : : : : : : : : : : : : :.\: : : :| | <: : : : : : : : : : : : :
| 〆ヽ/ : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.\: :| \: : : : : : : : : : :
| ヾ_ノ
そうやって、漸く、これならば、と思う手法を見いだしたのだった。
.
532 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:32:40 ID:Cnt0v6QE0
出来上がった寒天を煮溶かし、木箱に流し入れる。
/ ̄ ̄ ̄\
/ \
/ \ / \
| (○) (○) u |
\ (__人__) /
/ `⌒´ ヽ
ヽ、二⌒)≠ | }
{__}(⌒ニノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ やる夫、寒天は固める前に
!ヘl;| '____` ,ィ '"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ 一度濾した方がいいな。
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′ そのほうが舌触りが滑らかになって
,rト、 ー_ ‐-‐ァ' /|
_../ i| \ 二" ,イ.:ト、 糸寒天の良さが引き立つぞ。
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
.
533 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:32:58 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/ \ / \
/ (●)i!i!(●) \
| u , (__人__) |
\ .`⌒´ 〆ヽ へ、へえ!
/ ヾ_ノ
/rー、 |
/,ノヾ ,> | /
ヽヽ〆| .|
高和の言葉に従い、目の細かい笊で寒天を漉す。
.
534 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:33:18 ID:Cnt0v6QE0
出来上がった寒天を切り分けて、高和と共に食す。
____
/ \
/ \
__ / ⌒ ー \
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、 | (●) (●) |
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、 \ (__人__) /
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、 / `⌒ ´ イ`ヽ、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;! ., ' ` ̄ \
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! r─-- 、 ,rェ--- 、ミ;リ
!ヘl;|. ぐ世!゙`` ,ィ '"世ン 「ヽ
!(,ヘ!  ̄'" |:::.`  ̄ ,ドリ
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′
,rト、 ー- ─-: /|
_../ i| \ === ,イ.:ト、
/ i| ゙、\ ; /リ.:;!:::\、_
゙! ゙、 `ー─''゙:::;:'::::|::::::::::\
゙、 :::/::::::|::::::
`ヽ、 ゙、 ./ .| ,-、、
二人とも暫く無言で、ゆっくりと寒天を咀嚼する。
.
535 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:33:34 ID:Cnt0v6QE0
目を上げると、高和が嬉しそうに笑っている。
__
,.-''";;;;;;;;;;``'ヽ、
/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ、
/;;;;、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;、
,!;;;!゙`''~^~ァrr-'゙`'´''ラヘ;;;!
|;;;| ノリ ミ;;;|
_ゞ;! ー- ..,,_ ,,.-‐'''' ミ;リ
!ヘl;| ,.=≡=、` ,´ィ,.=≡=、「ヽ
!(,ヘ! '" |:::.` ,ドリ やったな、やる夫!
ヾ、! !; ,レソ
`| ^'='^ ム'′
.ト ヽ二二二フ .,イ
i| \ === ,イ.:|
,イi| ゙、\ ; /リ.:;ト、
`ー─''゙
_...-――― - 、
/ \
/ / ゙\_ \
/c(≡ ) (≡rぅ ヽ
/ o( 人 ) u ヘ
i ° Т´_`Т´ o° ’
! ` ⌒ "´ |
\  ̄ ´ , ′
> /
/ - 一… ¨ ̄\
やる夫も笑みを返そうとして、ふいに目が潤む。
涙が滲んで、高和の顔が見られなかった。
.
536 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:33:51 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
537 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:34:57 ID:Cnt0v6QE0
前島浜を出た三十石船は、糸寒天を大切に抱えたやる夫を乗せて、天満八軒家を目指す。
_
||
l|
ll
,ll
Vx_z ´そ
ll∨/>K x‐i
. ll L///∧ .ム-1
. ll Ⅳ//∧ ム' !
〈≧≦////∧ _ム' l
. ll .Ⅳ////> ´.ム' .k
ll .7/> .´ィ´.ム' ム.
{ニニ´z ≦ <ム' .ム∧
. l ==-‐ ´ ム' ム//ヽ.
≧zx._ ヤ、 ム' ム///7 _.xz≦ ̄
≧ zx ._ ヤ>、. ム' ム//// _.xz≦
 ̄ `" ―--.`ー=≧x ム' ム//Z__ -‐ ´ ̄
` ≧―ム'____,ム<´
.
538 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:35:19 ID:Cnt0v6QE0
やる夫は船に揺られながら、思いを巡らせていた。
____
/⌒ ⌒\
/ (⌒) (⌒)\ (早う、この糸寒天を
/ ::⌒(__人__)⌒::: \
| |::::::| ,---、 旦那さんと番頭はんにお見せしたい)
\ `ー' しE |
/ l、E ノ (旦那さんと番頭はん、
/ | |
( 丶- 、 ヽ_/ 喜んでくれはるやろか?)
`ー、_ノ
___
/ \
/ \
/ \ , , / \ (翠家の旦那さんにも見ていただきたかった)
| (ー) (ー) |
\ (__人__) ,/ (もし生きてはったら、
ノ ` ⌒´ \
/´ _i⌒i⌒i⌒i┐ ヽ どんな料理を作らはったやろ)
| l ( l / / / l
l l ヽ /
.
539 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:35:35 ID:Cnt0v6QE0
そして、何より。
=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=
/ f fj /: : : : : : : : : : /: : : : : : : :ヽ丶、
l /´⊆※っ /: . : . : . : . : .:/ : : : : : : : :ハ: : :ヽ: :\
ヽ j ` /: . : . : . : . :/: ; : ‐''´: : : :/ l : : : }: : : ヽ
 ̄丁ヽf _/_:_:_:_:_:_:;;..≠、ニ -‐ フ´: :/ / : . : l: . : . ヽ
三/:.:.:.{ 、h,. l:.:.: : : : : : :/.////' ´‐< ,, _ ../::イ:.:../: . : . : .l
;;/:.:.:.:.:.} ⊂,. 、⊃{:.i:.: : : : : ´l .//////////_/ノ/: /:.:.:.: }: . : . !
: :.:.:.:.:.( J |:.l:.: : : : :l: | ///////// ´ /:Xl l:.:.:.:.l : l. .:l
:.:.:.:.:.:.:/ ヽl: : : : : |!:l /////// ノ _`ヘ:.:.:.:./:.:.:l:./
:.:.:.:.:.:.ヽ 「! トヽ: : : : l.///////ハ が;、∨:.:.:.;jノ
:.:.:.:.:.:.ハ ⊂,.、⊇ { \: : '、//// 、 じ'/:/:.:.:.∧
:.:.:.:.:/:.:ヽ lJ |: : :.丶、\ ///ノ:.:/
:.:.:.:./:.:.:.:ム ヽ: : : . ` ヽ、 _ 人/
:.:./-‐≦ヽヽ r、 }:: : : : . ..ィ:::::::}
´〃 { c X'' ヽ: : ヽ:.:__:_ . , イ:.:.※:.:.:}
ll ヽ ヾゝ ト、 /:::::.:.:.: ̄丁::l ヽ: : : : ノ
l! { `ヽ Yハ:::::.:.:.:.:.:.l: : |/{: . 〈
| ヽ fj }Z´斤\:.:._:.:l: : .| ヽn, |
=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=
.
540 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:36:47 ID:Cnt0v6QE0
___
/ \
/ \ , , /\
/ (●) (●) \
| (__人__) | イト .イト
\ ` ⌒ ´ ,/ (嬢さん、嬢さんとのお約束、
ノ \
/´ _i⌒i⌒i⌒i┐ ヽ 果たすことがでけました)
| l ( l / / / l
l l ヽ /
やる夫の胸を、誇らしさと安堵の思いが満たしていた。
.
541 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:37:21 ID:Cnt0v6QE0
船が枚方に近づくと、灯りを灯した小舟が近付き、船頭が怒声を浴びせてくる。
枚方名物「くらわんか舟」であった。
酒、喰らわんか!
∧_∧ ┌┬┬┐
_ l~~) (゚Д ゚ ;) ├┼┼┤ ごぼう汁、喰いさらせ!
!゙i~~ ( ) .├┼┼┤ ∧_∧ ┌┬┬┐
l l゙ー-´- 、.,,| | | /¨¨~j~ ̄--‐ | _ l~~) (゚Д ゚ ;) ├┼┼┤
. l ! ~~¨'''' ー‐-‐' 7 !゙i~~ ( ) .├┼┼┤
─i、____________,/ l l゙ー-´- 、.,,| | | /¨¨~j~ ̄--‐ |
. l ! ~~¨'''' ー‐-‐' 7
─i、____________,/
飯、喰らわんか!
∧_∧ ┌┬┬┐
_ l~~) (゚Д ゚ ;) ├┼┼┤
!゙i~~ ( ) .├┼┼┤
l l゙ー-´- 、.,,| | | /¨¨~j~ ̄--‐ |
. l ! ~~¨'''' ー‐-‐' 7
─i、____________,/
当地の住民が小舟を寄せて、酒や飯を半ば強引に売りつける手法は、
しかしこの地の風物詩として旅人に愛されている。
.
542 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:37:43 ID:Cnt0v6QE0
やる夫の隣に座った老女がか細い声を上げる。
-‐……‐-
ィチ:.:.:.:.::.:.:.:.:.:.:__:.:.:.:.:.:.:.:`
/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.`ヽ:.:.:.:.:.:.:.:`
γ:.:.:.:.:.:/:.:.:./ :.:.:.:. |:.:.:.:.:.:\:.:.\:.\:.:\
//:.:.//:.:.:.:.|:.:.|:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:\:.:.\:.\:.:ヽ
/:.:.:.:/ i:.:.:.:./|:.:.|:.:.:.:.ヽ-――-ヽ\:.:.\:ヽ:.:.:.
/: . : . /: .:!: .斗A: .ヽ: . : :.\ \: . \\: :i: .Y i
i : . : . l: . ィ´:.:.! __\、\: ヘ ン芯=ミ 、: ヽヽ|ヽ:|:,'
l: / : . |: . :i: lイ/乏え  ̄ "い;沁 ヾ「 : . : . ノj
V \: ト、: {:.Y{ い沁. マ_リ |: . |: |: |:| 餡餅は、おますか?
./`` ゝ::. 弋ツ , //// / .!: |: ヾ、
// ハ //// / !八 `ヽ、
/ /.l / 个 - ィ/ | ` ー-、 \
/ / 人ヽ ヽ >-r/ン¨ヽ´_|ィi マ'二ヽ. ノ ノ
.{ (, -==≧‐く`「l. `/ ′/ヽ_ iヘ ヤ二ニV (ヽ
.入 iニニ二ヘ \`/ -‐ } 入 ノ二ニニ}`ー- ̄ヽ
/_ノ |ニニ二二ヘ , r ノ/ノγ´二二ニト、 ) .)
γ´ ,ィ 千 lニ/ニ二二ヘ爪 .ノ'/ 入{_二二ニニ| ヽ//ヽ
しかし、とても相手の耳には届きそうにない。
.
543 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:38:01 ID:Cnt0v6QE0
やる夫は老女の代りに大声を上げる。
____
/ \
/ ⌒ ⌒\
/ ( ●) ( ●)ヽ あの、餡餅はそこにおますか!
l ⌒(__人__)⌒ |
\ ` ⌒´ /
/ ヽ
/\__/\
/ \
| ○ ○ | 餡餅はないわい!
| | ̄| .|
>. /―ヽ ィ’
.
544 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:38:29 ID:Cnt0v6QE0
/\__/\
/ \ 餡餅はあらへんが、
| ○ ○ |
|. | ̄| | 羊羹やったらあるで!
ヽ . /―ヽ ィ’
.. ____
/ ― -\
. . / (●) (●)
/ (__人__) \ 羊羹……
| ` ⌒´ |
. \ / (確か、旦那さんの好物や…)
. ノ \
/´ ヽ
.
545 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:38:52 ID:Cnt0v6QE0
,...:.:.:.:´⌒ー ミ、
/: : : : : : : : : : : :ハ
/. . . . ./ . . . . . . . . . ハ
ノ/ ハ /トハ ,i
/ 乂 i :! __Vヽ/ x=ミ ,1
{ハi ヽ |'⌒゙ }乂:| あ、ほなら私、
ⅵ、ヽ __ / |
ノ く乂丶 ー ’ .イ. .八 その羊羹をいただきまひょ。
-一 ヾ/⌒ヨ≦¬ \
r ´ /´⌒,} ヘ_ノ ̄´⌒ヾ\
| ./: : : :∧、_,厂_{: : : {:/: : :∧ ヽ
i く : : : : ∧、: :`ラ=<:}: : : ∨: : : ∧ }
,} ∨:/ヽ___У<_>:}: : : : }: : : : :.ハ /
____
/ \ すんまへん!
/ ─ ― ヽ
/ ( ●) ( ●)' こっちに羊羹ふたつ!
| (__人__) |
\ ` ⌒´ ,/ (旦那さんへのお土産にしよ)
/ ー‐ ヽ
.
546 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:39:25 ID:Cnt0v6QE0
船頭がかごに蒸し羊羹をふたつ入れてこちらに差し出す。
,、 _
/| //
/ _⊥ _ _ / /
/ ´O r‐┐O`ヽ/
! | | 」」_ l
ヽ _|__|_ TT ノ へえ、羊羹ふたつな!
(´_` ー─ァ- イ
`l し'´ l 銭はかごに入れてんか!
| | _ ,-、
| |´-二_ノ
l r─‐-、 l
`´ `′
やる夫は老女と一つずつを取り合って、銭を入れる。
.
548 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:39:46 ID:Cnt0v6QE0
,,.. ,..-‐ '''''' ‐- 、
Y´/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::゙ヽ、
/⌒:::{::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
〃::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヾ::、
ノ:./:::::/::::::::i:::::::::::::::::::::::::::、_::::::::::::::::::::::ヽミ=-
`"'7:〃::::::/:::::::::::i:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`ヽ、:.:.:.:.\:.:.:',
イ:/:::::::::i'.:.:.:.:.:.:弋.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\.:.:.:.:.::ヾ::ト、
''" V.:.:.:.:.:.{.:.:.:.:.:.:.:.:.\.:.:.:.:.:.:.:.:\ _.:.:.:.゙:;.:.:.:.:.:.ヾ:.:':.、,_
,'.:.:.:.:.:.:';.:.:.!.:ゝ、:.:.:゙ヽ、弋__:'")、:.:.:.ヾ: :!:.:.人 : '; : : :.
/::!:.:.:.:.:.:.':; ヾ、: :>、: : `ヾ、 ):ノz-≒::} :}、 : : `>:、: :
彡: !: : : {: : :':;: :K: : ヾ:冬 ミ、:〈〆⌒`):人 ミ、 \ 、:`Y おおきに。
!: : : :':;:ヽ :'.;ヽ ,,z≠ ヾ) )ノ ..::::::/イ::! )) :》 : :) :):ノ
.ノ{ :λ : `ミ、:: 彳..:::::.. ' _,,. 〃/i::}:( λゝ、 /
/:〃: : :ヽ、_ 、 :`~':ミ、 く"~ ノ .((イヾリ:}}`Tヾヽ( :(
λ({ :`''ー、:) リ~''>‐ゝ、 `゛ .イゞ::/〃:ノ ノ:イ、 :
`)ヽ ;,,.: )ノ::7: 〈:ゞミ:';`~゛>= "-‐‐、/://: ( : { :ヾ、
r''" ,,..- ''`''-= : : }: リ、__γ_ .aイ 《ヘィ''"⌒::ヽ、
〆" :/廴 〃⌒`~"'''~ノノミ三三三彡{ : \::::::::::::::::::::'.
____
/ \
/ ─ ─ \
/ (∧) (∧) \ いえいえ。
| (__人__) |
\ `⌒´ ,/
/ ー‐ \
やる夫は竹の皮に包んだ羊羹をそっと懐に入れる。
.
549 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:40:10 ID:Cnt0v6QE0
それを見た老女が声を上げる。
、_人
) __r‐-、____
<、 ,..::'"´:::':::::::::ヽ::::::::::::`"'::..、
Y /.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:\:.:.:.:.:.:.:.:.:.\
., :' : : : : : : : :|: : : : : : : : `' 、 : : : : ' ,
/ __ 」_, 、_ \ ';
/ / / 八. | .∧\ ` ヽ ;.
; ./ //-=、 '、 |/ ァ=-ヽ. ; |
{ | /7 んハ \| ん.ハ ∨ } .; あんさん、
'、|. {八 弋_.r! 弋_.r! ノ / /
ヽヘ、 '、 wxw , wxw/ / / そないなところ入れたら
} ト、_,,.ゝ _ ∠ イ 八
/ ; 八 /´ ̄ヽ u 八 / ヽ._ せっかくの羊羹がわやだすで。
/ / ; >、 ,. 、 ノ ,.ィ |Y `ヽ
, '´ ./ l ( |>// lヽ イ / ;' | } )
{ ( ._」__\ {,r// ; r!-' } /_」__ノ (
、 ヽ/::::::::::::::| ヽ! ';' ; ||_ハ/::::::::::::::::\ ,ハ
) /::::::::::::::::::::| |::| .| :| |::::::::::::::::::::::::∨ }
/{ ./:::::::::::::::::::::::| |::| ,ハく:| |:::::::::::::::::::::::::::\ (
/ 、{:::::::::::::::::::::ヽ「 ̄`ヽ--'"´「ヽ:::、∨::::::::::::::::::::::::::::} ヽ
_____
/ ― \
/ノ ( ●) \
. | ( ●) ⌒) |
. | (__ノ ̄ / へっ?
. | /
\_ _ノ\
/´ |
. | / |
.
550 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:40:41 ID:Cnt0v6QE0
_..._
. ´:::::::::::::::::`::.....、
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ヽ
. ノ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
,:'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',::::::::!
,'::::ノ::::/::::::::::::::::ィ:::::ハ::::::::::}::::::::i
. {::/:::::/::::::::::::__::ノノ/ -}::::::::,'::::::::::}
}:{::::::{::::::::/- 、 ノ::彡:::::::::::ノ
ノ ゙:、 : : :/ィニヽ ,ニ 、.}:::::::::;'
( : : : ): :人´.::::: , ⌒ヾノ : ;.イ 蒸した羊羹は水気が多いよって、
. ノ: : :メ : : : ) __ .::::/: : (:人
,,.-''" ,..:':::::::)::/ ヽ. ( ノ (: :从ノ: : :ヽ それで無うても日持ちがせえしまへんのや。
( r.::::::::::::::::::"::ヽ: : )、. , .イ jノ : : : : : : :)
) iミ, '⌒ヽ__::}}:::::)ノ ,,_´>:!!::ー-., ./{ さ、これに包んで
. / /ノ `ヽ::::::i::::::::::::::::ヾ!!:::::::::\ ヽ ノi
/ .Y ノ_ }:::::{=====}.!!::::::::::::::l ヽ `ー'´ノ 腰にぶら下げといたらよろしおます。
/::ゝイ `ヽ |:::::} ,,...-"}:ヾ:::::::::::ノ ヾ'ー'´
_ノ//:::{ 、 |::::{><, ,,..{:::::i=". ',
:::{:::::{:::八 l l l i:::::} ,,...-"''-..,}:::::}::/ ! .{
::::::::::!:::::ハ. l l l };::::{" ,,..ノ::::ノ/ i ', \
ヽ:::::::'メ,:::::、ノ l し'.:"::}`><,.,/:/:i ノ. ', ヽ
/ \/:::ヾ::::ヽノ、ノ.::::::::::{'´ ./:/><{. i ', ヽ
そう言うと、袂から風呂敷をだしてやる夫に差し出す。
.
551 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:41:02 ID:Cnt0v6QE0
____
/ ノ \\
/ (●) (●)\
/ ∪ (__人__) \
| ` ⌒´ | い、いや、そんな、
\ /⌒)⌒)⌒) //⌒)⌒)⌒)
ノ | / / / (⌒) ./ / / 滅相な……
/´ | :::::::::::(⌒) ゝ ::::::::::/
| l | ノ / ) /
ヽ ヽ_ヽ /' / /
ヽ __ / / /
_,,...__,,,...,,_
,,..::''":::::::::::::::::::::::>...、
/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::゙ヽ、
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/:::::::::::::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::\:::::::::::ハ
j!:.:.:.:./:.:./:.:./.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ:.:.:.:ヽ:.:.:.:.:.i
/:.:.:.:/:.:.:.:/:.:.:i:.:.:{:.:.:.:.:ハ.:.:.:.:.:゙;.:.:.:.:ヘ.:.:.:.:.i
/:.:.:.:.i.:..:.:/.:.{:.:i:.:i:.i.:.:.:.:.:.}:.:ト、:.:}:.:i:.:.:.}:.:.:.:.:i
/.:.:./:.{:.{:.:ト{:A::{从:.:.:.:.:.:.j リ‐-jハ:.:}:.:.j!:.:.:.:.:.i
//: :/: :i: : :{ムにエ、 ゞ\:.:トxニ二,}ノ}: /: :i : : i かめしまへん、
,...:''" _ノ: : : : 代 : ト 込仞 ゾ込多 >ノ/゙): :i : : ト、
/ / : : : : : : ゝY :ヽ /,ィ/ : :i : : ゙、 もう使わへんもんですさかい。
〃 / / : : : : : ノ :ノ .:! 弋(/ }: : :i: : : i ゝ
{{ {/ / ,..::''" j }\ ` ::: " ∠`ミ`ヽ、i ト、
゙、 i { / ノ r<}`::....__ _...::<{>ヽ \\ 乂.
}} ゙、 i 〃/ / } `''ー---‐ '" / ノ ハ Y ⌒
ノ ハ .i i i { { 「`''ー---‐ '''"´ 〉 ( } }
‐ '''" / } j__} }-ァ ''7":::ヘ ー--‐ /::`''ヘ-{ i~゙ヾ
/ __.../:::ノ ノ::/ /::::::::::ヘミ==x====彡:::::::::::i弋 {ー-.、
.
552 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:41:23 ID:Cnt0v6QE0
____
/⌒ ⌒\
/ (⌒) (⌒)\
/ ::⌒(__人__)⌒::: \
| |::::::| ,---、 ほな、ありがとう使わせてもらいます。
\ `ー' しE |
/ l、E ノ おおきに、ありがとうさんだす。
/ | |
( 丶- 、 ヽ_/
`ー、_ノ
,. -‐'''"´ `"' 、
/ ,. ‐''"´ヽ \
, ' / ! ハ
/ / / , ,ハ ,ハ |八
/ .,' ./ -‐ァ'| ./ |/ ‐-',. / \
'´ | ,| | / __レ' __ .|/| .| 「` いえいえ、
', 八 レ-==、 ァ==、 ソ .| ',
':、 \ |'" , "/ | ヽ. こちらこそありがとうさんだした。
ノ\ | ヽ、 / ,ハ )
/ /`7 ,ハ `ー ' ,イ ,' | ,ハ
/ / ! 人 ノ>.、.,__,,. イ 人. | ! / !
.
553 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:41:46 ID:Cnt0v6QE0
,...:.:.:.:´⌒ー ミ、
/: : : : : : : : : : : :ハ
/. . . . ./ . . . . . . . . . ハ
ノ/ ハ /トハ ,i
/ 乂 i :! __Vヽ/ x=ミ ,1
{ハi ヽ |'⌒゙ }乂:| 感心だすなあ、
ⅵ、ヽ __ / |
ノ く乂丶 ー ’ .イ. .八 お土産にしはるんだすか。
-一 ヾ/⌒ヨ≦¬ \
r ´ /´⌒,} ヘ_ノ ̄´⌒ヾ\ 私は口いやしいさかい、
| ./: : : :∧、_,厂_{: : : {:/: : :∧ ヽ
i く : : : : ∧、: :`ラ=<:}: : : ∨: : : ∧ } ここでいただかせてもらいます。
,} ∨:/ヽ___У<_>:}: : : : }: : : : :.ハ /
r ´ /≦:__:/: {>-<i : : : ノ: : : : / L
{ ,/-≠: /` ー}<.>{:一< ≦≧f ヽ
老女はそう言うと、嬉しそうに竹の皮の包みを開く。
.
554 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:42:07 ID:Cnt0v6QE0
しかし、中の羊羹を見るとあからさまにがっかりした様子を見せた。
-‐── ‐- 、
/:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
/.::.::/::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.:ハ
〃..:.ハ、..:..:..、ハノヽ:..:..:..:', なんや、これ……
レ :.ノ ノ ヽ,ノ `ヽ ヽ:...:..:ハ
ヽ.:( ● ● (:.(..:...:..:) 色わるいなあ……
)ν⊃、_,、_,⊂⊃ν (
( /⌒l,、 __, イァ......、 )
)ヽ::::::::/:|___/::::/::::::::::) (
( |::::::::l:::|><|::::::ヽ:::::ノ )
.
555 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:42:27 ID:Cnt0v6QE0
彼女は楊枝なども使わず、竹皮から直接口に運んだが、
噛んで飲み込んだ途端、大きく肩を落とした。
,,.. ''"´ ̄ ̄ ̄`' 、
, '´ \.
/ , '"´ ':,
/ / .l , ,ハ ',.
,イ ,' /, ハ、__/.! / | |
'´! | _/イ | / レ' レ'! .ノ! !
'、 | /レ' |/ ‐‐''"/_,.イ | | あきまへん。
ヽ ,ハ ‐‐''" "゙ | ヽ-、 |
は ソ .|" ' r、| | | !l 八 これはあきまへんわ。
ぁ ( /人 r‐ 、 | ! ! ! !| ( ヽ
,'´ ̄`ヽ ソ >,、 / / ヽ
! --‐' ,( .>rァ' ,' /┐ __ .',
' 、_.ノ ( ソ_rく ー'--l ̄7ー‐r'7/´:::::::::::`ヽ.
ソ/´::::::|/::ヽ--'|:::;'::::::::;:::| |::::::::::::::::::::::
//:::::::::::::/:::/::::::::::;}ー -- ‐ァ/::::::::::::::::::::::::
,' .!::::::::、レ':::;'>-<:|\:::::/|/::::::::::::::::::::::'.
____
/ \
/ u ノ \
/ u (●) \ ほんまだすか、
| (__人__)|
\ u .` ⌒/ それは災難な。
ノ \
/´ ヽ
.
556 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:42:52 ID:Cnt0v6QE0
,.. ::::'::"´:::::::::``ァー::.、
,..::''´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::゙丶、
,.::":::;::::;ァ::::::::::::::::::::::::゙:㍉、:::ヽ:::::::::::\
,.:':::::::;:’::/:::::::::::::::i:::::::::ヾ:::::::゙ヾ:::::\:::::::::ヽ
/ァ':::::/;:::/:::::i:::;::::::i:゙ト、ヾ::‘;::::::::ハ:::::::.:ヽ.:.:.:.:.ヽ
. //.:;.:.:;';'.:/.:.:.:.}.:.l.:.:.:.:.:! ヾ.:.:ハ.:.:.:.:.キ.:.:.:.:.:.\.: : :ヽ. あんさん、
..//.:/.:.:l.i.:.{.:.:.:.:,!.:.:|.:.:.:i.:l ヾ.:.:}.i.:.:.:.:}\.:.:.:. : ` <ミヽ
.レ’.;’.:.:l.:!.:l.:.:.:.リ.:.リ.:_,/ _ ∨!: }: : リバ:゙ヾ: : : : : `>ゝz、. そない不味い羊羹、
./.:.i.:.:.:.:l.:!.:|:.:-z: :/!.:./爪ソ辷゙斗:/ : ;}'!:}: :、 : `ー-ミ; : : : : ,.z,
レイi:.:.:.:トミ.l.:ノrヶくレ′ マ云ノ/! : /: : ト;ハ:ヾ :\: : :  ̄: : : : お土産にせんほうが宜しおますで。
レi: : :|川ルl!代:ヽ ゙ー'’ノ:メ: : : ハ: :! : \: `'-<
㌧: :!ΝNiヾ 弋j ケ ,レ’バ_: :゙:‐-:, _ 二 もうここで食べてしまいなはれ。
Ⅵ´\!: : ヽ ` _,. ,’ ノ'’ノ圭圭ミ丶 ヾ >
} リ: : :}゙.x、 /| ォ: ,zに圭圭圭ミヾ、\
// 人 ミ`¨>く>l / /i |圭圭圭圭圭ハ
/'’ ./ ハ ミニ´7、.{ / /i lリヨ圭圭圭圭圭ハ
___
/ \
/ノ \ u. \
/ (●) (●) \ そうだすな、
| (__人__) u. |
\ u.` ⌒´ / ほな私も失礼して……
ノ \
/´ ヽ
やる夫は老女の言う事に従い、腰の風呂敷包みを解いて羊羹を取り出した。
.
557 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:43:17 ID:Cnt0v6QE0
やる夫は蒸し羊羹を食べたことは無かったが、
それでも口に入れた途端にわかった。
____
/ \
/ _ノ ヽへ\
/ ( ―) (―) ヽ (なんやこれ)
.l .u ⌒(__人__)⌒ |
\ ` ⌒r'.二ヽ< (小豆の味がなんもせえへん)
/ i^Y゙ r─ ゝ、
/ , ヽ._H゙ f゙ニ、|
{ { \`7ー┘!
幼い日に食べた苗村の小豆の濃厚な味を覚えている舌が、
『これは偽物だ』と訴える。
.
558 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:43:45 ID:Cnt0v6QE0
顔をしかめるやる夫を見て、老女が溜息まじりに言う。
/⌒ ー 、 ⌒ヽ
( 、 ノ ( __)
`' ‐\ ,. -‐─‐/`ヽ. / -'
,. '" ノ ( '´ ト、
/ / ⌒ |⌒ヽ.,_
/ .,.' /、 / ./ _.ノ´
,' ./ / /メ、/| /ヽ, / ヽ
|. | |/`'‐-=' |/-‐∨ | 餡の量をけちって、
| 人 | "" ー='/ / ./
/ ( \!. ' "|/ / 代わりにつなぎの粉を倍にして
.ノ ハ 、 ヽ. ´ 人 (
,:'´ /.,..--、\ |> 、.,__,,. イ ) ヽ.. /´) 蒸してあるんだすわ。
.| /::::::::::::::::`rヘ--─-!、‐-</ \ / /
.人 r':::::::::::::::::::::::::::ヽ--─r‐‐ソヽ;::`ヽ. | Y´ つソ`ヽ 粉も多分、米やのうて麦と違うやろか。
| ゝ─‐-、::::::::::::::ノ´:::::`ヽ}>くヘ`ヽ| ,ハr | )ーノ
八. /><::::;>-イ::::::::::::::::::::lY>く|{::::∨ |` ー-、_ノ、
/ /"´:::\/ ヽ:::::::::、:::::::::::::::::::}|>く|{:::::八. ,'\::::::::::::/
r'´::::::-─<| ノ \::::::::::::::::::::イ}>くソ:::イ\/::::::::\Y´
ヽ;::::::::::::::::/::`''ー--rヘ-、:::::::::::::::}|>く|{:::|/:::/>-‐::''7
\::::::::/|::::::::::::::/|:::|. `ヽ::::::::}|>く|{:::|:::r|:::::::::\/
_____
/ ― \
/ノ ( ●) \
. | ( ●) ⌒) |
. | (__ノ ̄ / つなぎ?
. | /
\_ ⊂ヽ∩\
/´ (,_ \.\
. | / \_ノ
.
559 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:44:06 ID:Cnt0v6QE0
_...。::'" ̄ ̄::~"'' ー..、__
,.:::´::::::::::;ィ'":::::::::::::::'"⌒`::::::::::ヽ
/ /::::::::::::::/::::::::::::::::::::::::::::::ト、
/ :./:.:,。::''":::::::::::::::::::::::j.:.:.\
/:.:.:.:.:.:./:.:.:.... / :.:.:.:./.:.:.:.:.:.:.:ヽ ハ
/:.:.:.:.:.:./.:.:.:.:.:,。::'".:.:.:.:......./// .:/A ハ }
,:':.:.:.:.:/:.:.:.:/:.:.:/:.:.-―-、;:ィ/.:.:.:.:.//~゙!...:.:i.:.:.{ へえ、つなぎ。
/ : : : : /.:.:.:///,,..-‐ 7ィ'" ノ:.:.:.:.:メ、 }:.:}:.}:.:.:!
{: : : : :/: :/〈({ /:/xャ≦云ヽイ.:.:.:/ ヽj:.:リ:.:.:i:.:i 餡だけやったら、
乂 : : {: : { f:弋:j!-《 込勿~` 彡''" ,然ミx /ノ.:.:.:j!:.:}
}: : :゙、 i: { : ゞi、  ̄ :'{仞 ヾY: : : : /: :j! どないに蒸したかて固まらへんのだす。
ノ: :} : : : : 乂 ゙、\ { "ノ: : :/: :ノ
,..:'" ノ ノ: : ノ: :ヽ ゙ト }} 彡 ィ":,.ィ 固めるためにつかうもんを、
γ´  ̄ 弋 { ) j// っ ノノ: :人(: :゙、
{ / { ` / 人(,,\ ,..ィ{(~': : : : : : \ つなぎ、言うんだすで。
゙、 { 人 { //r┴―‐`'''=ニ´ {{ 弋 ヽ
} ゙、 \ ヽ 〉、_........_ イ ヾ\ `ヽ、 } ゙; }
ノ ,..::''" ̄~7 7⌒`廴  ̄ _〕ミー―--..、ヾヽ i j/
/ /::::::::::::::::/ /::::::::::::i ~''''ー‐'''" __\:::\ヽ:\ j {
,。:'" f:::::::::::゙、:::::::i i:::::::::::::人  ̄ヾ " \::::ヾi::::ハ_ ゝ
.
560 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:44:33 ID:Cnt0v6QE0
/ ̄ ̄ ̄\
/ / \ \
/ (●) (●) \ 固めるために使うもんがつなぎ……?
| (__人__) |
\ ` ⌒´ /
/ \
____
/ \
/ \
/ \
| \ ,_ | (何やろか……)
/ u ∩ノ ⊃―)/
( \ / _ノ | | (今、何やえらい引っかかったんや……)
.\ “ /__| |
\ /___ /
老女の言葉を聞いて、やる夫は考え込んだ。
.
561 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:44:55 ID:Cnt0v6QE0
=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=
/..::::::::::::::::::::: ;;;;;;;;.;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
/.:::::::::::::::::::::::: :;: ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;, l
l..::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;:;._,,,,.;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; |
l.::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;::,r'|' .,r'. /.,、...;;;;;;;;;;;;;;.!
| ::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;:l. V.;;;;ヘ,,/│;;;;;;;;;;;;;;;{
| ::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;|`、', ,.:;....;;...,iii_゛ー ..,_.... ,.l
l:::::::::::::::::::::::: :;;;;;;;;`、`゙..;モ..lニ.: :二=,,,,二.ノ' 例えば、茹でて潰した里芋を
./:::::::::::::::::::::::: :;;;;;;; `、┴.. .;`、゛L::::゛ー・ハ;i`、
/::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;; ゝァ . ; .....''゛゙''''- -イィ. ゙l 寒天で固めることが出来へんか、思てる。
i゙i ./.:::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヘ.._ _...-―''ニヘ!
l .i, \ _.____: ::: : .:;;;;;;;;;;;;;:; ,.、i,.;;;;;; l ; i`l.'.;;.、i,. ;ナノ
l,. i. ,r'. ゙゙゙゙゙゙゙゙̄゛'''''''''''”゙/l`、;;;.| l |..::! ! l;l l.l
l i ./ / /. `、.| ;│;; l :.i | |.l /
.! i ヘ...,, / /..i. l. :;.t,,_凵. -´/
.l i. : :`゛''- .._ ./. /. .',. `、 ;..:::. ,iナ/ .,./
=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=‐=
ジャギの声が耳に蘇る。
.
562 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:45:23 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/_、 ,,/" \ (茹でて潰した里芋を固める……)
/ (●) ゙(●) U \
| (__人__) | (固めるために使うもんがつなぎ……)
\ ⊂ ヽ∩ <
| | '、_ \ / ) (せやったら、里芋を寒天でつなぐ、いうことも
| |__\ “ /
\ ___\_/ 出来るんやないやろか……)
____
/ \
/ \
/ \
| \ ,_ |
/ u ∩ノ ⊃―)/ (でも、それが一体どないなもんになるんか……)
( \ / _ノ | |
.\ “ /__| |
\ /___ /
料理人でないやる夫には、その味が想像できない。
.
563 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:45:43 ID:Cnt0v6QE0
______
`=、;;;;;,,,,,,,:::,,,,,;;;;;,,,,`""''';;;;,, 、__
,.-'゙''''',='";;;;;;;;",-,,;;;;;;゙;;;;;;;;;l;;;;`,、
/ `ー-...,;;;;;;;;;;;;,-‐/;;;;;;';;;;;;;;;;;;
./ `''''''""i;;;;;;;;ヽ
l |;;;;}
| ノ;;;;}
ヽ、 _,/;;;'゛
`ヽ、_ ._,,.,;‐';;;;゛゛
"'''=ー;‐---‐‐'';';"-''"゛
~~~~ ̄´
手にした蒸し羊羹が目に入る。
.
564 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:46:11 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/ \ ,_\ (せや、茹でて潰した里芋かて、練り上げた餡かて、
/ (●)゛ (●) \
| ∪ (__人__) | 粘りのある食材いう点では一緒や)
/ ∩ノ ⊃ /
( \ / _ノ | | (ほんなら、何も里芋に拘らんかてええのやないか?)
.\ “ /__| |
\ /___ /
____
/ \
. / \ (子供の時に母上が作ってた
. / ― ー \
| (一) (一) | 苗村の小豆と砂糖で練った餡)
. \ .u (__人__) /
. ノ ` ⌒´ \ (あれを寒天でつないだら、どななるもんか)
/´ ヽ
想像するだけで、胸が高鳴る。
.
565 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:46:35 ID:Cnt0v6QE0
脇に抱えた糸寒天の包みにそっと触れる。
____
/ \
/ \ / \ (この糸寒天が、
/ (●)i!i!(●) \
| u , (__人__) | そんな「つなぎ」になるもんかどうか……)
\ .`⌒´ 〆ヽ
/ ヾ_ノ (ともかく、試してみんことには)
/rー、 |
/,ノヾ ,> | /
ヽヽ〆| .|
.
566 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:46:59 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
567 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:47:15 ID:Cnt0v6QE0
/ ̄ ̄ ̄\
/\ / \
/ (●) (●) ヽ
|:::⌒(_人__)⌒:: |
,ィTl'ヽ\ l;;;;;;l /`ヽー;、
kヒヒど, `ー´ {⌒Yィ 、 ソ
`´ ̄ヽ ハヽ `^ー′
ヽ ` / '}
> /ごノ
__,∠ /
〈、 /
\、__ノ
船が八軒家に着くと、やる夫は真っ直ぐに天満宮へ向かった。
.
568 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:47:41 ID:Cnt0v6QE0
再建はまだ遠くとも、宮司、社家のみならず、氏子たちも手入れを怠らず、
焼け跡の無残な姿から信仰の場としての佇まいを取り戻していた。
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : , '´ ; : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :, '´ ,' : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :, '´ ,'´. : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :; '´ :´."' : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :,' ,:'´. : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :, '´ :´. : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :`, ,' : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :`; , '´. : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
:.:.:.:.:.;´' : : : : ,:::': : : : : : : : : : : : : : : : : : ; ,' : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
.:.:,ノ"/: : : :,:::' : : : : : : : : : : : : : : : : : :;'" ,:'´". : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
'" / : : : :' : : : : : : : : : : : : : : : : : :;'" ,'´. : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
i |: : : : : : : : : : ,´ : : : : : : : : : : : :`' 、,, , '´ . : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
l |: : : : : : : :,,、': : : ,: '´: : : : : : : : : . . . . . . `': .、,. ,. '´ . . . : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
l |: : : : :,、ィ,:'/,:':: : : : : : : : . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .: : : : ,,:,:,;: : ,:::':.::.:.,、ィ,:'/,:'
l |,:':.':.:.:.|l ; /:.: . . . . . . . . . . . . . :,、ィ'r'゙:::.::.::.::.::.::.:|l ; /:.:
l |:.:.:.:.:.:.|l |: . . . . . . . . .| !|.::.::.::.::.::.::.::::|l |.:.:
l |.:.:.:.:.:.:| l|. . . . | !|:.::.::.::.::.:::.::.::| l |.:.:
l |:.:.:.:.:.:.| l |. . . .| !|:.::.::.::.::.::.::.:::| l |.:.:
l l ""''''""''''""''""''' ''" '' ' ' ' ' '' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' ' '' ' '' ' ' '' ' '' '"'' ' ''''"""''''""''"""'''"""''
| ヽ "'''" '"'"
|ヾ \ , '"'' ' ""''' '' ""'''
そのことにやる夫は救われた思いがする。
.
569 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:48:08 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/ ─ ─\ (天神さん)
/ (一) (一) \
| (__人__) | (おかげさんで、
\ `_⌒ ´ /
. ノ / )ヽ く 翠家の旦那さんや嬢さんと約束した寒天、
( \ /__ノi ) , )
. \ ゙ / ヽ ヽ/ / このとおりこしらえることがでけました)
\_/ \_ノ
失われた社殿に深く頭を下げて糸寒天完成の報告を済ませた後、
井川屋へと足を向けた。
.
570 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:48:30 ID:Cnt0v6QE0
===================================================;;;|..│
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
 ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
==@==@==@==@==@==r─ー─‐-──ー┐@==@==@==@==@==@==
─────────‐| 井 川 屋.│─────────
:: : :| |;;| :::: :::: :____`ー─-─-‐ー─┘____:::::::::::::: :| |;;| :
| |;;| ::||三三三| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|三三三||: | |;;|
| |;;| ::||三三三|__|__,,ノ___,ノ___,,|三三三||: | |;;|
| |;;| ::||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三三||: | |;;|
| |;;| ::||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三三||: | |;;|
| |;;|:::: /||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三 /:: :::::::::::::| |;;|:::::
| ̄ ̄| ̄ ̄|. ||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三|| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄
| | |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三|| | | |
| | |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三|| | | |
|__|__|/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;||_|__|__|_
.
571 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:48:56 ID:Cnt0v6QE0
井川屋の表を掃いていた女衆が目ざとくやる夫を見つけて声をかける。
, ⌒ハ ハ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ヘ^ ⌒ Y ⌒ヽ/ .::::::::i
ノ:::::::::j(ノ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ル:::::リγ::..:::::..:::...ヘ、: : : :: ノy:::::::リ
Yyノ ノ :ノ...:ノ ノ ヽ ::::::) ルリノ
リ::::::(( ⌒) (⌒)::( まあまあ、やる夫さん!
. ハ::::ハ ,, _ リ) )
) ) )、 `´ ノくハ( お帰りやす、ご苦労さんだしたなあ!
(,(.( ' ヘ い ノ:::))
(⌒))` ヾ ソ ̄((⌒)
/ i ノ Y ヽ ヽ、
. l___ノ( ...... ..... \_ノ
ヾ. .. :::::::: ::::: .ノ
, ⌒ハ ハ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ヘ^ ⌒ Y ⌒ヽ/ .::::::::i
ノ:::::::::j(ノ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
/ル/:::::リγ::..:::::..:..ヘ、: : : : ::ノy:::::::リ
Yyノ(::. ::.ノ ノ ヽ、ヾ:::::( ルノリ 旦那さん、番頭はん!
ヽ:::( (●) (●) ):::::ノ(
リ(i r‐- iィ))`) やる夫さんが戻らはりました!
((ハ:.ゝ ヽ ノ ノいノ:(リ
,..ノj/ lヘ_ // 丿lノ卜.、∩
_ ,、r‐" 、/l("!´ っ..l l |: ′`'' | |-,/)
r-r;''´ `、/´ |lぅ夕 1ヽ..-.,,_ 丿}ノ /ノ)
(,_{ハ_ ,, ''-‐1 ‐/ ゙'〈/⊂ニ '" ニ⊃
ヘ ノ,′ `'=>'''"´
ノ //
そして、店の内に向かって大声で呼ばわる。
.
572 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:49:20 ID:Cnt0v6QE0
くすくすと笑いながら、やる夫に小さな声で言い添える。
, ⌒ハ ハ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ヘ^ ⌒ Y ⌒ヽ/ .::::::::i
ノ:::::::::j(ノ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ル:::::リγ::..:::::...ヘ、:::..: : : :: ノy:::::::リ
Yyノ ノ :ノ...⌒ ーヽ :::.;;:::) ルリノ 旦那さんも番頭はんも、
リ:::((ー) (● ));.;::(
. ハ::::ハ _, ,, リ))〉 今か今かて朝からずうっとそわそわして
) ) )、 nl^l^l (
(,(.( ' ヘ 「 ノ:::)) 大変だしたんだすえ?
ノ/)` ヾ ヽ く 、
,' ノ Y ヽ \
l: ( ...... .ヽ、_)
.ヾ. .. :::::::: ::::: .ノ
___
/ \
/ノ \ u. \
/ (●) (●) \ 今朝の船で着く、て
| (__人__) u. |
\ u.` ⌒´ / 知ってなはったんだすか?
ノ \
/´ ヽ
.
574 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:49:44 ID:Cnt0v6QE0
, ⌒ハ ハ⌒ 、
j:::::::::ヽ ,ヘ^ ⌒ Y ⌒ヽ/ .::::::::i
ノ:::::::::j(ノ ..::::....::::..:::: ::. .ヾ)':::::::::::i
ル:::::リγ::..:::::..:::...ヘ、: : : :: ノy:::::::リ
Yyノ ノ :ノ...:ノ_ノ ヽ、 ::::::) ルリノ へえ。
リ::::::(( ●) (●) ::(
. ハ::::⊂⊃ 、_,: ⊂⊃リ) 高和はんから文が届いてました。
) ) )、 ノくハ(
(,(.( ' ヘ い ノ:::))
⊂⌒ヽ )` ヾ ソ ̄( ヽ /⌒つ
\ v ノ Y ヽ v /
/ ̄ ̄ ̄ \
/ . \ そうだしたんか。
/ _ ノ ヽ、_ \
.| (ー) (ー) . | (高和はん……)
\ (__人__) . /
/ `⌒´ ヽ (ありがとうさんでございます……)
ヽ、二⌒) (⌒ニノ
高かった井川屋の敷居がぐんと低くなった。
.
575 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:50:07 ID:Cnt0v6QE0
唇を尖らせて番頭が入り口に顔を出した。
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
|.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
|::::::::/ \::::::::/i:::|
|:::::::〉( ●)::( ●).|
.(@ ::::::⌒(__人__)⌒) 何してるんや、
| ` ⌒´ |
\ ,/ 早よ入りなはれ!
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::|
. | u `-=ニ=- ' .::::::|
\ `ニニ´ .u ::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
その後ろに店主も控えている。
.
576 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:50:23 ID:Cnt0v6QE0
/ ⌒`"'⌒`ヽ、
/,, / ̄ ̄ ̄ ̄\ 旦那さん、番頭はん、
/,//:: \
;/⌒'":::.. |⌒ヽ えらい勝手をしました。
/ /、:::::... /ヽ_ \
__( ⌒ー-ィ⌒ヽ、 /⌒`ー'⌒ ) この通りでおます。
━━━`ー──ゝィソノー‐ヾy_ノー─"
やる夫はその場に土下座して、頭を地面に擦りつける。
.
577 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:50:46 ID:Cnt0v6QE0
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(○), 、(○)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| そないなことは、
. | `トェェェイ ' .::::::|
\ `ニニ´ .:::::/ あとや、あと!
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
_____
/.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
|.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
|::::::::ゝ \ / | やる夫、
|::::::( ( >) (<)|
(@ ::::⌒(__人__)⌒) 早よ旦那さんに糸寒天をお見せしなはれ、
| |r┬-| |
\ `ー'´/ ほれ、早よう!
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ
| \/゙(__)\,| i
____
/ノ ヽ、_\ r ⌒j
/( ○)}liil{(○)\ / /
/ (__人__) \/ / / )
| |i|||||||i| / / / / え、旦那さん、そんな引っ張らんといて、て
\ |ェェェェ| / '` ´ /
r´ (⌒'ー―- イ′ ´廴 番頭はんまで、え、ちょっと、待っておくれやす!!
/ > 、 ヽ _  ̄ ̄ ̄)
/ -、 } (  ̄¨´
/ ヽ._ __ \
` --‐'´ `゙' 、_.)
二人に引きずられるようにやる夫は店の敷居を跨いだのだった。
.
578 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:51:17 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
579 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:51:33 ID:Cnt0v6QE0
― 井川屋 奥座敷 ―
|| | || | | | | | | | \\
_||.._|_______________||.._|_________.| | |______.| | |0 \\
___________________________|| |______.| | l\. |li、
|| |┌┬┬┬┬┬┐|┌┬┬┬┬┬┐|| | | | | | |.|\.\、 |||
|| |├┼┼┼┼┼┤|├┼┼┼┼┼┤|| | | | | | | |\\.\|||
|| |├┼┼┼┼┼┤|├┼┼┼┼┼┤|| | | | | | | |\\\.\
|| |├┼┼┼┼┼┤|├┼┼┼┼┼┤|| | | | | | | | \\\、
|| |├┼┼┼┼┼┤|├┼┼┼┼┼┤|| | | | | | | | \\`
|| |├┼┼┼┼┼┤|├┼┼┼┼┼┤|| | | | | | | | |li `
|| |├┼┼┼┼┼┤|├┼┼┼┼┼┤|| | | | |_ ('υ | | | |||'`
|| |└┴┴┴┴┴┘|└┴┴┴┴┴┘|| | | | | ミ)γ´.| | | |||
|| | !'''''''''''''''''''''''''''''''!|!'''''''''''''''''''''''''''''''! || | | | |___| ̄|_| | | |||
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'、!__|\ l_l..| | | |||
________________ \\ .| | | |||
l\ \. \\、| | |0 |||
ll\\ \ \、| | | |||
~ \\ \ | | | |||
\l二二二二二二二二二二二二二二二二l | | | |||
|.|__| |.|__| '、|_|\ |||
\..\. |||
\.\|||
\.!||
\`
.
580 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:52:34 ID:Cnt0v6QE0
煮固めて一寸角に切り、器に盛られた寒天を口にして、ダディが声を失う。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::| これは、なんちゅう……
. | u `-=ニ=- ' .::::::|
\ `ニニ´ .u ::/ なんちゅうもんなんやろか。
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
____
/ \
/ \
/ _ノ ::::::: ゝ、 \ (旦那さん……)
| (○) (○) u |
\ (__人__) ,/ (気に入ってくれはるやろか……)
/ `⌒´ \
やる夫は部屋の隅に控えて緊張した面持ちでじっと待っていた。
高和から太鼓判は押されていたが、やはり店主と番頭の評価が怖かった。
.
581 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:53:24 ID:Cnt0v6QE0
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(○), 、(○)、.:| 創業から四十五年、
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | `トェェェイ ' .::::::| 寒天問屋の主をやらしてもろてるけんど、
\ `ニニ´ .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、 こんな食感の寒天、私は扱うたことない。
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i | いく夫、お前はんはどうや。
> ヽ. ハ | ||
_____
/:::::::::::::::::::::::::::.\
|.::/⌒Y⌒ヽ:::::::::::.| はあ。
| ノ \ i:::::::| ウドン
|(─) (─ ) 〈::::::| えてして大坂の者は饂飩でも豆腐でも
(⌒(__人__)⌒:::: @) ヤロ
| |r┬-| u | 柔こいのが好きでおますよって、
\ `ー'´ /
,-- ゝーー ___/ /ゝ--、 こないに歯ぁにあたるもんはどやろ、とも
イ / |.!、 _____ / ノ | i
| i |,/(__)ヽ/ | l 思うんだすが。
_-─―─- 、._
,-"´ \
/ ヽ
/ _/::::::\_ヽ
| :::::::::::::: ヽ …………
l u ( ●)::::::::::( ●)
` 、 (__人_) /
`ー,、_ /
/ `''ー─‐─''"´\
番頭の言葉にやる夫が肩を落とす。
.
582 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:54:08 ID:Cnt0v6QE0
だが、意外にもいく夫はこう言葉を続けた。
_____
/.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
|.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
|::::::::ゝ ― ― | けんど、こないなご時世、
|::::::( ( ─) (─)|
(@ ::::⌒(__人__)⌒) 柔こい頼りない食感のもんより、
l^l^ln ` ⌒´ |
ヽ L / よう噛んで腹の膨れるもんのほうが宜しおます。
,,.... ゝ ノ_、___ ーノ゙-、
.i / / '; \_____ ノ.| ヽ
l / / \/゙(__)\,| i
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
|.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
|::::::::/ ⌒ ⌒ | 私は歯ぁが悪いよって、
|:::::::〉 ( >) (<)|
(@ ::::⌒(__人__)⌒) 噛み辛うはおますけんど、
| /| | | | | |
\ (、 `ー―'´, / これに黒蜜でも回しかけたら
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ 美味しおまっしゃろなあ。
| \/゙(__)\,| i
___
/ ⌒ ⌒\
/ (○) (○) \
/ ///(__人__)/// \ ば、番頭はん!
| u. `Y⌒y'´ |
\ ゛ー ′ ,/
/ ー‐ ィ
.
583 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:54:42 ID:Cnt0v6QE0
/`ー──一'\
,r(●)(、_, )、(●)\
. | '"トニニニ┤'` .:::| はあ、そら面白い!
|. | .:::| .::::|
. | ヽ .::::ノ .::::::::| もっと小さい賽の目ぇに切って、
\ `ニニ´ ..::::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、 甘う煮た小豆やらえんどう豆やらを混ぜて、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i | 黒蜜をかける、いうのはどうや?
> ヽ. ハ | ||
_____
/.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
|.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
|::::::::ゝ \ / | 宜しおますなあ、旦那さん!
|::::::( ( >) (<)|
(@ ::::⌒(__人__)⌒) 何や久々にこう、
| |r┬-| |
\ `ー'´/ 力が湧いて参りました!
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ
| \/゙(__)\,| i
___
/ ⌒ ⌒\
/ (⌒) (⌒)\
/ ///(__人__)///\
| u. `Y⌒y'´ | (旦那さんも番頭はんも、
\ ゙ー ′ ,/
/⌒ヽ ー‐ ィヽ 喜んでくれてはる!)
/ rー'ゝ 〆ヽ
/,ノヾ ,> ヾ_ノ,|
| ヽ〆 |´ |
主と番頭が手を取り合わんばかりに喜んでいる。
その様子にやる夫も嬉しくなってきた。
.
584 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:55:17 ID:Cnt0v6QE0
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| やる夫、お前はんが精魂込めて
. | ´トェェェイ` .::::::|
\ `ニニ´ .:::::/ 作ってくれたこの糸寒天、
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i 売る方は私といく夫とに任せてくれへんか。
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
_____
/.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
|.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
|::::::::ゝ \ / |
|::::::( ( ●) (●)| 任しとき、大坂中を糸寒天の話で
(@ ::::⌒ノ(、_, )ヽ⌒)
| `-=ニ=- | もちきりにしたるさかいに!
\ `ー'´ /
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ
| \/゙(__)\,| i
____
/_ノ ヽ_\
/。(⌒) (⌒)。\ へ、へえ!
/::::::⌒(__人__)⌒::::::\
| ヽr┬-/ | ありがとうさんでございます!
\ `ー'´ /
.
585 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:55:32 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
586 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:55:50 ID:Cnt0v6QE0
その夜。
/\___/ヽ
/''''''≡≡'''''':::::::\
|(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
| `-=ニ=- ' .:::::::|
\ `ニニ´ .:::::/
/:: ::\ //::::: \
.____ /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
./ \ ./:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i
./─ ─ \ .f´:: ::i;;:: :: :: /:: :: :: :|;;;;;;;;:::|
./ (●) (●) \ .__r''ヽ:::|;;;;::/:: :: :::;;;;;:::ヽ;;:: :ノ
.| (__人__) | .i" )ノ:: ::と;;;;:___;;;;;;;;;;f゙;;ノ
.\. `⌒ ´ / `l Tl::U:::/|;;;; ______:;;;;;{
/ !:::: ヘ |. | |:: :丿|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
..ゝ_|:::: ヘ ハ .|. | `'''"l;;|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
.|:::: \/ .| | |;|:: :: :: ::;;;;;;; :: ::;;;;;│
.|:::: | | |. |;|:: :: :: :: ;;;;;;; :: :;;;;: |
.ヘ::::: / i .| | |;;|;;:: :: :: ;;;;;;;:: :: ;;;;:: |
\: | / .| | ー!、:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::;;;;;;;ノ
ヘ\_/| l | 〉. !, ノ !、_
.\_/ !_| 、‐''゙ _) (____ヽ
風呂屋へ行く主人の供をして、やる夫は夜の町へ出た。
.
587 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:56:06 ID:Cnt0v6QE0
/ロロロロロロ.\
ノ从 (") 、| 日門日|ノ'、| i | ___,,,..........,,,__li___,,,..........,,,__ li レ|i i i| |.|
/ロロロロロロ.\,,ミ 彳ゞ 木 / ,~ ,~~ ,~~ ~~~\ i /ロロロロロロ.\
、| 日門日|`|li| i i_,,,-ー~~ ̄ ~~ ~~~ \、| 日門日|
,,ノi|i Lノl__,,,,,-ー''"~ ~~ ~~~~ ~ ~~ ;;;;~\` 、 l /ロロロロロロ.\
-ー''"~ ~~ ~~ ;;;;;; ~~ ;;;;;; ~ 、| ~ \ ` 、| 日門日|
___.○______,○______,○___\_ __,○___\____,○__
___| |______| |______| |______| |______| |_
|||| |||||||| |||||||| |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| || ∧_∧ || |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| ||( ´∀`) || ||||| || |||||||| ||
====__=======( )============== .∧,,∧==
ヽ|__ノ) モォ (( 人 Y ,ハ,,ハ ノリノリハレリ
(‘-‘ ハ _)_, ―‐ 、し(_) ∧,,∧ ( ゚ω゚ ) パー゚,ノリハ
/(Y (ヽ_ /・ ヽ  ̄ヽ 彡・ー・ミ ノ^ yヽ リ( †リとリハ
ノ___ゝ ` ^ヽ ノ.::::::__( ノヽ と @つ ヽ,,ノ==l ノ ハ/ '' ヽハリ
_/ヽ /ヽ ̄ ̄/ヽ | ,O / l |.,, リ<ノ、ノ_,i_,ゝハ
しかし、何故か天神橋を渡って南へ南へと足が向いている。
.
588 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:56:26 ID:Cnt0v6QE0
安堂寺橋まで来たところで、流石のやる夫も弱った声で主に訴えた。
____
/ \
/ u ノ \ 旦那さん、
/ u (●) \
| (__人__)| ここままやと風呂屋で無うて、
\ u .` ⌒/
ノ \ 順慶町に行ってまいます。
/´ ヽ
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| せや、
. | ´トェェェイ` .::::::|
\ `ニニ´ .:::::/ そこの夜見世の団子屋に
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i 用があるんや。
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
.
589 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:56:44 ID:Cnt0v6QE0
やる夫の足がぴたりと止まる。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| どないした、やる夫。
. | ´トェェェイ` .::::::|
\ |,r-r-| .::::/ 早よ行こ。
,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、. /^)
: | '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(
| \/゙(__)\,| i |´⌒ )二 ト、
____
/ \ 堪忍してください、旦那さん。
/ \
/ _ノ ::::::: ゝ、 \ 私はもう、二度と嬢さんには
| (○) (○) u |
\ (__人__) ,/ 逢われしまへんのだす。
/ `⌒´ \
.
590 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:57:07 ID:Cnt0v6QE0
ダディはにんまりと笑う。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(○), 、(○)、.:| 翠家の嬢さんにやったら、
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | `トェェェイ ' .::::::| 私も会う気はおまへん。
\ `ニニ´ .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、 団子屋のきらきーに
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i | 会いに行きますのや。
> ヽ. ハ | ||
____
/ u \
/ / \\
/ し (○) (○) \ え……
| ∪ (__人__) J |
\ u `⌒´ /
.
591 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:57:25 ID:Cnt0v6QE0
順慶町の夜見世は、変わらず賑わっている。
,l ゞ:〃 ______
,l ゞ:〃 :::::::::::::::::::::::::::::::r" |∥∥∥∥∥
゚゙'ー、,,, ,l ゞ:〃 ,,,r'" l| |∥∥∥∥∥
゚゙'ー、,, ゙゙`ー、, ,,l ゞ:〃:::::::::::::::::::::;r゙゙|::::::::::l|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
゙゙゙゙',ー、,. ゙゙'ー、_ ,l ゞ,.〃 ,r''|::::::|;;;;;;;;;;l|
.ll .゙゙''ー,,, ''ー、,_ _ ,l゙ゞ;〃:::::::::::;;rl|::::::|;;;;;;|::::r''''l| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.ll いら ~~゙lー、、:i┿l| l:ゞ〃 . ,,,r'" l|;;;;;;|::r''|;;;;;;;;;;l|
.ll しゃい lミミl*li温l|ヽi:ー,、 彡~〃彡'"''',,r''' l|::r''|;;;;;;|::::::::::l|
.l:──--、、、...lミミl*il丿l|__li゙゚態N、、 , l l㌍'''"、__r''__,、、l|;;;;;;|::::::|;;;;;;;;;;l| :::::::::::::::::::::::::::::::
, l l l llll|ミミミミミミミlミミl*ll泉l|~~トlー-i゙l~~冫 ~ |゚l、.丿彡彡彡l|::::::|;;;;;;|::::::::::l|
lj,,',,',,',,',,',,',,',,',,',,',,',lミミl*ll丿l| llヾヾiー ゚l゙~i:!』,, l『』i゙゙゚゙:lヽ ̄ ̄l|;;;;;;|::::::|;;;;;;;;;;l| ::::::::::::::::::::::::::::::::
l| l .l lミ.8 8 8 8 ∧∧,;"「」 [] λλ i~ll"|..| ̄~l|::::::|;;;;;;|::::::::::l|
l| l.∧∧ ,、,、 n n ∧∧( ,,) (*´ロ`) (´v`*) ノリレ,, ノリルレ ,::::::|;;;;;;;;;;l|
l| ...(*´ⅴ) (-^* )::::::::) ∧∧(∩_∩ (~ ノ-( ノ (-・ (゚- ゚*ノリ.;;;;;|::::::::::l|
,-'" ( ヽ(゚* ) ) ( `ー) (∀・,,) vvv 〉 ノ 〉 l i_)(Y ノ.|::::::|;;;;;;;;;;l|
,-"´ ノ 〉 ( ) ( ) ( ) (v` ) Y ノノ~~'ゝ ∩∩ .∧∧.:::::::::::::::::::::::::::::::
∧w∧ ▲,,,▲ ( ( (/`ヽ) 〈 ヽ ( )ノリルリ λλ (__) し`J (::::::::::).(:::::::::::)
( ・∀・)(∀` ) ∧_∧ ∩_∩ し' Jノリ゚ ー゚(ー ` ) ∧∧ ∧_∧::::::::つ.:::::::::::::::::::::::::::::
と )( ) (@Д@* )(´∀`*) ( つ (v,と) ( ´)(゚ ):::::::::| ______
Y 人 Y 人 (つ<V>)と <v>) /~~~~ Y 人 と | | |∪∪.┌───┐
(_)`J (_)`J | | | 人 Y ^^Uヽ)(__)ヽJ | ~ | ~.l │∥∥∥│
けれど、大火の影響だろうか、昔は確かにあった贅沢品を売る見世は姿を消していた。
.
592 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:57:46 ID:Cnt0v6QE0
翠星石の団子屋は行列が幾重にも出来ているので直ぐにわかった。
, -―、 | __|_
( f⌒} | , .:::::::::::::::::::::
l r ゙ |/.:::::::::::::::::::::::::
| _」__ /.:::::::::::::::::::::::::::::::
r '´ | , - 、r―‐- 、 ;::::::::/l:::::::::::::::::::::::
-―‐- 、| | /.:::::::::、vi::::::::::.、`{:::/リ ∨ヽ:::::::ト、:
/.;.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:| ト、 __ /.::::::;:イ:/ l:::::::::::.ヽVl //////}::::::| }
/.:.:.:{.:.:.:.:!:.:.:.:.:.:.::| /` \ ̄` < ̄ヽ /イ::/‐{/ ‐ヘト:::::::::::! | ,. -‐┐ |::::::lノ::
,:.:.:.;ィヘ:.:.:.ト、--:.:.:| .〈:.、.. .. 、\ \:| /:/― L/ ―- \ト、}:{〈 | |::::::l:::::
{.:´:lリ '; .:| rァく 、:.|/:ヘ:.\:::::..\:.\:..:..:..:.i| イ::/- '´ ゙ー- -‐' |:::::::ヽ\. | |::::::l:::::
l/l:.代:)ヽ! `ー' ト{:::::/\|` ー_|::::::ト、::::}:|l レ{ ,、 |:::::::::::>r┴、!:::::::::::
V:. _ l:.リl::|‐-r┐'´ lァ::::| V.::!:!. |:\ l__〉 」::::::;、:::} |:::::{/〉::::::::::
}.:ヽ ヽ ) ノ./ |L..ノr‐〒―'|:::::::l_ノ::::l::\ リ|::/>――ァ ´ ヘ::/>、|::::::/ヽ:::::::::
__ 、__ノ:.}:}:.:|>r '/:ノ.:.:l::ト、 l l |::::::::l::::/ ̄ヽ>_」ノヘ jr‐'´ 〉、 /.:/ |::::,′ }ヘ:::::
./ (_,ヘ 7ノ/>ァ'7 (:( ノ.:::::::トl__j_ . イ:::::::::} l )/ ∨ `/.::::/ |:::′ l l::::
{ ノ /f(イ ,' / ノノ(:::::::::;:イ,.ィ::「 lノ::::::/| ノr{, ' /.::::/, l::{ ,′l::::
.ヽ { (rヘrァ! {,ノ ,(:{ >:ノ| { {:::l 〈::::::く r┴‐-〔 / / {::::::l/ .|::l ,′ l::::
l 」┐ / |/ ` (:< l lイ::::! |>:ノ 」_ / ,′ l::::::l |:::! ! |::::
.<⌒´ノ!/{ | /  ̄ 〉 !::::l | ̄ 「 ` ー | l:::::l l::::l| l ::
l ̄ ト、 l | / ,′l:::::l.| | | l /.::::{ |::::l ト、 |:
| |ヽl r' / { ';::::',.! | | l /.:::::/! |::::l| \l:::
| l } ,′ l ';::::', | | l 〈:::::/ | |::::| | |:::
.
593 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:58:06 ID:Cnt0v6QE0
_r=ァ=、ィfZァ、,、
, ´fフ:´-=_:三ー_ー^ヘ
/ _r//'_ァ'='^ー'`´` ^ー\
/r=、ソィー'7´ ヽ
ハ L/イ| ヽヽ ', ヽ ',
, ソ/ l ハレ´イ{ { { | ', ハ ',
//:/ ノj `´i |ムト、ト、 | } リ i !
ハ:{/イ: { 乂yニミ、ヽ ノ メ ノ/ } !
ヽ._ヽー 、 / // |:. ヽ. { ´ ̄¨` `}イ,ィミxイ / ノ/
 ̄二ニヽヽ/ -ヘ、:.. l:... lト\`' ´ ¨// ./
ヽ、_ _-ァ.:´__::.::.::.:ヽ::\ j:〉..:.l:... l! 、_ __′"/´ | / )
_,._-ニ-ァ‐´ィ二;:-- 、::.::..`ヽ、..:∧:.. lト_、 イ.: j| /{ ノ′
‐ ´/´ /´ ̄´/::.::.::.::.::..‐.-_、::\:.ヽ:.. l::.::::>ー<l!:.:.|:. リ‐//レ /:::、::::::、::::::、::::/::::jL、
/′ /-‐ァ::´::, ァ::/.::.: ̄:.`ヽト、.V/::}:ハ:{トヽ/!:. !:/‐'::/ /:::/::/\:::\:::辻-く仁、
/´ /::.:/ノ/..::..::.::.::.::.::.:..:ヽヽヽ=l:| ト='イ-!: /::;∠ イ_ i::::i::/__ ` ー ミ _∧ ニ/{
/´ /イj/イ'/.::.::_.::.::.::.::.::.::.::.::.`トi`j:|__ヽ\ノ人::.::.::∠´ l::::レ.ァニ、ヽ ィニ、ヘ_ノレ'
/' イ/ // ノ/:.‐..´...::.......ー ::.::.::.::.::.::.:K/:ハ.「jフス::.:.`:くヽ ゙:」 ´込ソ . 込ソ i::/
/// /イ.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.{_j jァzく::.::..::..`ヽ、 /∧  ̄ r==┐ ̄ ∧ヽ
, --、 {!`ーヽ. 、___ノ メー' i}、
/ ̄>‐、」::_:_:_-:i>┬<!:-:_:_:_:」i
/ / / ト、7∠イ::i⌒i:::iヽ:ニ:ニ:ノ\
_ヽ ´/、 __ニ」:::! ゚ i:::l〉=:、. .ヽ \
\___\ ノ/r=_ _「i::! ゚ i:/{!三:`ー' i ,, l
/z{::::\ /::Y <<. 、ニr=_ノ .::i.:/ /
売り子に若い娘を雇い入れたらしく、その娘と水銀燈とが客の応対をしている。
.
594 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:58:25 ID:Cnt0v6QE0
_>  ̄ ` 丶 ___
/ 「 / /
/ v / /::\ /
. /、 //::::::::::::::\'__
/::::::::\ ', /::::::::::::::::::::::::::::ヽ ⌒ー
′::::::::::::ヽ . /::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ__
|::::::::_,x┼::{ Y:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
. ハ::::::ハ::ゝイ:ヽ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
. \:小ヽⅥ::i {::::::::::::::::::::ヽ::::::::::::::::::::::
ノ''ノ:::} }::::::::::::::::::::::::\::::::::::::::::
\ ̄! /:::::::::::::::::::::::::::::::\::::::::::
`ゝ .ハ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\::::
ノ , '-‐ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/ / \::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
/ /:\\ \:::::::::::::::::::::::::::::::::
/ Y.:.:.:.:.:.:.:.ヽヽ \::::::::::::::::::::::::::::
{ ,{.:.:.:.:.:.:.:.:.:.} } \::::::::::::::::::::::
翠星石はというと、こちらに背を向けて団子を詰める作業に専念していた。
.
595 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:58:41 ID:Cnt0v6QE0
疼く胸を押さえて後ろ姿を見つめているうち、
やる夫はあることに気付いた。
____
/ヽ /\
/(●) (●)丶
/::⌒(__人__)⌒:::uヽ
l |r┬-| l (あっ……)
\ `ー'´ /
/ ヽ
し、 ト、ノ
| _ l
!___/´ ヽ___l
.
596 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:59:00 ID:Cnt0v6QE0
_,、-‐ ''´ ̄`''―-、,
, ィ'´,ィxXxXxXxXxXxヽ `ヽ、
,ィ'´,ィXxXxXxXxXxXxXxXxヽ、 ヽ
/ /XxXィ'´:  ̄: ̄: ̄`'ヽ、xXxXヽ ヽ、
_/ ./x/:/: : :/: : : : : : : : : ヽxXx!ヽ \
\ /: :./: : :./: : : : :/: /:.l: : : :ヽxXxヽ ./
〉´: : :./: : /: : : : : : /::/: i:.l: : : : :iXxX.i!. /
/:./: : :/: : /: : :/:/: : : /i:.|: : : : :lxXx!.l、/
i:./i!: :/: :.//:/:/: : : : //.l:|!:l: : : :lXxXl∧
|! i!l/!:./:/:./:/: : : : ://‐十ト!l: :.:lXxX.l: :ヘ
|" l l |/: l:/:.////./ | `!: :.lxXx/: : :.ヘ
,ィ'´/xXx |ト、:l: l`=-#.#. ゝ=-' ./: /xX./: :|: : :.ヘ
,ィ'´: : :/XxX/riィ!`ー`-#.#. , //lXx.i: : :.l: : : : :`.、
__,、-‐'´: : : :./XxX/ィ´i.`j ` 、#. ー /´ |Xx.l:_: : |: : :i: : : :.\
 ̄: : : :/: : : : : lxXxX!..〈 .i.ゝ. ,ィ=≧、-,,≦==, lxXlYj、: |: : :|: : : \:`'ー--
: : :__: : : : : :,lXxXxl...イ, i フ 《 ,ィ又ト、 》 ヽX|、ィj、: : :.:l: : : : : \: :ー-
.イ´........... ̄ ̄´.lxXxX!....ゝ.i`j ゞ=イ"〃ヾゞ=イ´. \!、ゝ、: : :l: : : :: : : :\: :
............................../XxX!|.....`i i.イ 〃.ィj ゞ、 ヘXx\: : : : : : :\: : :`:
.........................../XxXx/......ゝ.i 〉 〃イj トj ゞ、 ィェク≠ヽxX\: : : : : : :\: :
......................../xXxXxi....../`j.i.ト、 イj.....トィケ≠イ"......./ VXxX.\: : : : : : \:
(嬢さん、お顔を隠してはらへん……)
.
597 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:59:20 ID:Cnt0v6QE0
翠星石は、時折、詰めた団子を母親に渡すために振り返る。
ことさら顔を隠すわけでもなく、その仕草はごく自然だった。
/ _( /´: : : : : : : : : : : : : : :\_
/ f fj /: : : : : : : : : : /: : : : : : : :ヽ丶、
l /´⊆※っ /: . : . : . : . : .:/ : : : : : : : :ハ: : :ヽ: :\
ヽ j ` /: . : . : . : . :/: ; : ‐''´: : : :/ l : : : }: : : ヽ
 ̄丁ヽf _/_:_:_:_:_:_:;;..≠、ニ -‐ フ´: :/ / : . : l: . : . ヽ
三/:.:.:.{ 、h,. l:.:.: : : : : : :/ _ ..``' ´‐< ,, _ ../::イ:.:../: . : . : .l
;;/:.:.:.:.:.} ⊂,. 、⊃{:.i:.: : : : : ´l `了''ゝ..、ー 、 _/ノ/: /:.:.:.: }: . : . !
: :.:.:.:.:.( J |:.l:.: : : : :l: | .##. { ノ:;;jハ ´ /:Xl l:.:.:.:.l : l. .:l
:.:.:.:.:.:.:/ ヽl: : : : : |!:l .#.# ヾ'ソ.# ノ _`ヘ:.:.:.:./:.:.:l:./
:.:.:.:.:.:.ヽ 「! トヽ: : : : lヽ.#ヾヽヽハ.# が;、∨:.:.:.;jノ
:.:.:.:.:.:.ハ ⊂,.、⊇ { \: : '、#######.# 、 じ'/:/:.:.:.∧
:.:.:.:.:/:.:ヽ lJ |: : :.丶、\##### ///ノ:.:/
:.:.:.:./:.:.:.:ム ヽ: : : . `.##. ヽ、 _ 人/
:.:./-‐≦ヽヽ r、 }:: : : : . ..ィ:::::::}
´〃 { c X'' ヽ: : ヽ:.:__:_ . , イ:.:.※:.:.:}
ll ヽ ヾゝ ト、 /:::::.:.:.: ̄丁::l ヽ: : : : ノ
l! { `ヽ Yハ:::::.:.:.:.:.:.l: : |/{: . 〈
| ヽ fj }Z´斤\:.:._:.:l: : .| ヽn, |
l 〉⊂, え ヽ〃|ハ ヾヘ)-、:.l {f!〈
ヽ `丶、 { lj 〈:/ |ハ > 〉 ヾ、 | |
. .ヽ ` 〉 ノ |ヘ|//{ ヽ| |
ヽ ヽ ) |ヘ|" l):.: . /| |
そんな翠星石に、奇異な目を向ける客もいなかった。
.
598 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 22:59:43 ID:Cnt0v6QE0
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
レイ:. ..:.:.i::.:...:,イ:.:..:/ ..::..:: ト::.::.:.::',::. ヾ ” .}
//::. ..::..:l::.::/乂: /..::.イ..::.:i: | .ヾ::.::.ヽ::.. V k'
. / i::. ..::. : |: /::/メ/://..:::/|/―― 、::.:}ー.:. i ヽ
|:. ..:::....:|/_/ム- /:..// ,___, \!::.i ..::|7米 ト、
{:. ト:..:::.. :.V//zミ,,/.# 衍ハ;:::l;:ア.|::.l::.. | .ヽ::`:....._
i::.:ハ::. .:. .:.K《イ.l:..:ハ.#.# 乂:=:ソ 从:!::./ }ヾ::...:`:..ー
ヽ:{ ヽ:..:..ヾゞ弋=ン.#.# ” ̄ イ7:/!/ヘ ヽ::.`::.ー:- これからは、こちらの火傷の顔で、
{.\ \::\ゞ#”".## , /ノハ ヽ 7K= \::.`ヾ::.
. },il ヽ{:ヽ _::≧、## -ー.ァ /i::.l::.',::.:ヾ:\” `ー 、::. 『雪華綺晶』として生きていこうと思てます。
{7米ノ/::.イ::/>...._ ` ´ イト、_|::.|::.:ヽ::.:',::.::`ー.、 ヽ
. / イ::/::/:r=vノ> _ イ. |,,; .ヽト,::. ..::. :..ヽ::.::.:\ーー 、
.. / ノ://::/:rZ/ r==、 V У \ヾ::.::.:\::.:::.::.:ヽ
../7{ノr″.イ::./Zノ .||>ミメ、V ,,/__ ` ー 、_::.::.::.::.::.:.
/://:/rZ/ .||__ ヾに}=イ ̄ ̄}} rZz⌒入::.::.::.::.:..\
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
いつぞやの、翠星石の言葉が蘇る。
.
599 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:00:03 ID:Cnt0v6QE0
,,.: ''''""~""'''‐..
/ \
/ ─‐ ── \ (せや)
/ ( ● ) (●) `、
./ / \ ', (昔の嬢さんの面影を重ねて今のあのお人を
i ( 人 ) ',
! `゙'´ `゙'''''´ | 気の毒やとか可哀想やとか思うのは違う)
\ ,.'
> / (違うんや)
/ -----‐‐‐'''"~ \
翠星石の心の強さに目を開かされる思いだった。
.
600 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:00:26 ID:Cnt0v6QE0
水銀燈が目ざとくダディを見つけ、屋台を抜けて駆け寄ってきた。
_/:/l:.| /l | l l| l ヽ \
'´ ̄イ:ニ:イ l/_ヽト、l_ lヘ | l | ヽ
// j:| l l ヽ-ヽ`ヽ卜、 l j| ト l
/:l /:l l | 、_.二 _ 「 \l /イ/l l| l
.:/ /:/ l |  ̄ ̄ヾミ レ_⌒ヽ} l ||
,' l:::l ヽ l /// { =ミ //| | l
「´ l\ ', r - ._ / ,,,, /イ /レ'
/ | l \ ! ` 7 l/ // まあまあ、
ノ| l ! '、 / / イ:|
l ! ! \ ヽ. _/ 7¨´ | ハ::l 井川屋の旦那さん!
,l ! |_, - ≧ 、 _ _, イ l | L! /|
/ ! l | 〃 ̄ フ水ヘ\ | l l / }
ヽ l | ヽ\// l ヽ_〉:〉 l /! | / / __ - '´
 ̄\ハ l |、  ̄l:| l:ト-イl ! / l l/ /// ∠
Vヘ l \_ |:l l:|\_/ /_/ ̄\
} \! |:l l:| ∨ / \
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(○), 、(○)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | `トェェェイ ' .::::::| 女将さん、
\ `ニニ´ .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、 繁盛で何よりやな。
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
.
601 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:01:00 ID:Cnt0v6QE0
. / / /::/ / ヽ } l | i l
|./ /: 1 L ` ヽ | l i l l
/ /:/ .! 「 " ` ミ 、 \ i / / / |
! /ツ ト、 ! ヾ l / / / .i
./ , } ヽ i l .-- 、_./ / l
ヽ { / l \ヽ j /_ ´ ヽ / / /
/ l }ヽ ` ヽ〉 `ヽ ー ´ / / へえ、いっつもお心にかけて頂いて
. i i l _ ヽ ソ _. / /
.il !. l ヽ ソ`}ィ.、 ' /7 ´ / ありがとうさんでございます。
.} / ト... \ト、 ⊥ヘリ _ イ./ /
.ハ l::::::::`:ー.、{_ ヽf .イ }-- ァ /ソl_入 ィ / 今、雪華綺晶にもご挨拶させますよって。
リ{ .l::::::::::::: ´ _二ヽ} ! ´ f イ .,! .l ´
ヽ ! .{:::::::/ f } l / 〃 リ / / .} i
、 l l:::/ " - 1 } / / ´ ./ .i !
.l } / / / / ヽ
/\___/ヽ
/ノ⌒'" `'ー-、::::\
. | (●),、(●)、 .:|
| ,. (,、_,、)、_ .::::|
. | {,`ト===イ ,} .::::| ああ、構へん、構へん。
\ ヾニノ .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、 忙しいしてるのに、申し訳ないわ。
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
.
602 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:01:28 ID:Cnt0v6QE0
そして、やる夫を自分の前に押し出して、水銀燈に言った。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\ これ、うちの店の者で、
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| やる夫、言いますのや。
. | ´トェェェイ` .::::::|
\ `ニニ´ .:::::/ 私の足がもうあかんでな。
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i 今度からこれを使いによこすさかい、
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | || よう顔を覚えといておくんなはれ。
___
/ \
/ノ \ u. \
/ (●) (●) \
| (__人__) u. | だ、旦那さん……
\ u.` ⌒´ /
ノ \
/´ ヽ
.
604 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:01:53 ID:Cnt0v6QE0
/;;;;r' ̄´ ` ̄ゝ、;;;;;;;;;;ハヽ
/ソ´ (ヘ;;;;;;;ハ)ハ
//´ / (ヘ;;;;;;;|) ハ
レ' /| ヽヽ ヽ (ヘ;;;;|) ハ
/ / /│ |_\|__|__ (ヘ;|)) ハ まあまあ、旦那さん、
l / l | | r'| | ハ ` ((!!)) |
| | | 」-ト、ト、 | _x===| }((ト、ヽ | それやったらわざわざ
| レ|´| | | ヽ | rテ´ | / ハヽ__」〉|
_| | | | |_==ヾ、 ∨ |/ / {{ ̄ ̄|| お使いをよこさはらんでも、
〈l ̄〉ハハ \\x゙ , /// / llヾ〉 |||
ヾ_'-'∧. ヽ \\ _ ノ jノ ,イ /| ll |ヾ_ | / うちからお店にお届けに
/||ゞ´∧ \_\ゝ /// | {{| | | /;;;
//´|| 〉〉、_ ヽ ̄ヽ、 /イ‐,,/ ゙| | |∧/;;;;;; 伺いますよって。
// ゙ |_| /\\_|` - -、- < ̄;;;;;/l } /`│_;;;;;;;;;;;
/\ー─-、 / / ̄/| || |;;;;;;;|;;;;;;;;;;;//| |_/;;;;;;;;| ;;;;;;;
____/___〉;;;;;;;;;;;;>' / /l l/ || |;;;;;∧;;;;;;;;;/_ | /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;| ;;;;;;;
/`ー──一'\
,r(●)(、_, )、(●)\
. | '"トニニニ┤'` .:::| そらありがたい。
|. | .:::| .::::|
. | ヽ .::::ノ .::::::::| けんどまあ、
\ `ニニ´ ..::::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、 これが来たら気ぃ良う団子、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i | 渡したってな。
> ヽ. ハ | ||
.
605 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:02:24 ID:Cnt0v6QE0
〃///ヾ i ll i ! l i l | l ヽ ヽ
. i:|//i::i 》 /| li !メ l l ! i | ', ',
〆i !:L〃 i ', | ! | l ト, ! / l ! i } !
// / |:|'" i 斗弋T、‐- ', | ヽ ! /i /! /! ! l. } |
/ i |:l ', i弋ゝ‐-Y=、丶` ',.| /_.!ム、/_l / / ハ ! へえ、やる夫さん、
. | !:l ∧. ! ヒ_q )_ヽ レ' レ' 7 メ .イ / l !
. l |:|. ,ヘヘ ,r‐‐tァ/ /| ,/ レ しっかりお顔、覚えさして頂きましたで。
. l l」 i ヽゝ:::::::::::.. ゞ゚ノ//ノ |,イ
! ト、 ! .:::::..´ソ" l:」 ,-'´
i |. 丶 、_ ,、_ ´ /', , // あ、旦那さん、
. ', ト、 ゝ . ‐/ フ_,, ィ ´ !,〃 ,..-'´:∠_
. ', |::::`:‐-.、`> . _ / /l´ ゙!i lイ/:::::::::::::-= 二、_ 今、お団子をお持ちしますよってに。
、___ヘ !::::::;ィ;==,‐、 ;_/ / ! !| |::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::ff《ヘ i::≪::::::〃!,ィ´`‐-ヾ、l_/_il l、::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::ゞ》 ヘ. ト、::::゙彳/ゞ/r‐---、i/´::::| /:::\:::::::::::::::::::::::::::
____
/ u \
/ / \\
/ し (○) (○) \ へ、へえ、どうも……
| ∪ (__人__) J |
\ u `⌒´ /
やる夫はしどろもどろになって、屋台に駆け戻る水銀燈を見送る。
.
606 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:03:00 ID:Cnt0v6QE0
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:| いつぞやの銭、返す返すて煩いよって、
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | ´トェェェイ` .::::::| ほんなら団子で返してもらおか、いうことになったんや。
\ `ニニ´ .:::::/
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、 月に一遍か二遍、一折りもろてる。
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i | おかげで、『雪華綺晶』ともすっかり顔馴染みや。
> ヽ. ハ | ||
___
/ \
/ ::\::::::/::: u\ そ、そうやったんだすか……
/ (⌒):::::::(⌒) ヽ
| (__人__) u | (ほんまに……敵わへんわ……)
\ `‐'´ /
/⌒ヽ ー‐ ィヽ
.
607 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:03:22 ID:Cnt0v6QE0
養母から耳打ちされて、翠星石がこちらを向いた。
___
__ /: ̄ヽ_ ̄ ̄ ‐ 、
| /: : : : : : : : :ヽ/:|__ \
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : :|―.、 \\
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :./: : : : ヽ. \\
/: : : : : : :_: /: : : : : : : : : /: /: : : : : : :', ヽ
/: : : : : : :./\ : : : : : :.//: /.!: : : :|: : : : `
|: : : : : ∠'心 : :`: : : :/// |: : : :|: : : : |
|: : : : : /!ん'ハ ̄ ̄´ //_ |: : : :|: : : : |
___ |: : : : / 込zン####/' `\!: : : ,: : : :/ /
z≦三三三三二≧ュ、.ヽ: : :/##`¨′.##. "¨て心. |`: /: : : / /
. ,.イ三/二二二ニ==ュ、三三ハ: :{##### んしハ》ヽ/: : : / //
会ニ/二/ ̄ ̄\二二>‐-ヘ: 、.##.′ ゙ヽz:ン"/.: : , ′ /: :
ニ/二ニ/ ヽ二二二ニ>.ヘ ヽ_ゝ /: : :/ ./: : :
イ二二ニ\___ // ̄ ̄\ニ∧ \ ,.. :": :; イ´ , ′ヘ: :
二二二二二二二ニ/ ヽニ∧ ヽ__ー=ニ-ニニ/ /: : : : ヘ:
I / ̄ ̄\二二二\__ / ̄\ヘ 〉: | / / ∧: : : : : :
/ ヽ二二二二二ニ|::::::::::::::::\ ハ/ / / V: : : :
\___ // ̄ ̄\二二>、::::::::::::::::ヽ/厂 | | V: : : :
ニ二二/ ̄ヽ ヽニ./三ヽ::::::://へ __ _ ` | V: : :
三三/::::::::::::::|___//三=/:::/ / ̄ヽ/ / ヽ ヽ ! V: :
‐寸/:::::::::::::::/二二ニ/三=/:::::厂 ̄/::.::.::.::.| / |\ | : ∨:
|:|::::::::::::::::|ー=ニ三三I=/:::::/ヽ /::.::.::.::.::ヽ/ ̄ハ ∧ ヽ. V:
|/::::::::::::::::|::::::::::::::::::| \::厂/::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.:レ \ \ |: :
/:::::::::::::::::::ヽ:::::::::::::: ! ゝ/::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.ヽー―,7 \ `丶、
!:::::::::::::::::::::::::::::::::::::: | / 〈::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.:|ー 、\
ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ \ ',::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.! /! ヽ
|:::::::::/  ̄ ̄ ̄ ̄ヽ} ///::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::./ \/ ヽ
顔半分の火傷はそのままだが、少女の面影は完全に消え、
凛とした立ち姿の美しい女性になっていた。
.
608 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:03:41 ID:Cnt0v6QE0
翠星石はやる夫を認めると、大きく双眸を見開いた。
/ __/ ___ `ヽ__ \
/ / , : : : :´:: : : : : : : : : : \__ \ \
/ __/ /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \ ヽ \
/ / /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :\ ゚。 ‘,
/ { /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :| : : : : : ヽ | ‘,
{v′ ,ノ .´: : : : : : : : : : : : : : : : : :| : : : : : : |: : : : : : : ‘,\ \
∧、__i /: : : : : : : :/ : : : : : : : : : | : : : : : : |: : : : : : : : ‘, } \
´ ̄\}__,/___/___/: : : : : : : : |: : : :|: : : : :./∧: : : : : : : : :.' \―-- \
( / 7''¬――: : : :/.: : : : :/: : : :′: : :// ‘,: :|: : : : : :| }
\______{__i___/_/ : /: : : : : : /: : :.:/ : : : // '.: :|: : : : : :| 〈
 ̄7¨T T¬―//――――/′: : //ー――i:.|: : : : : :| }
{ |: :|: : //: /: : /// /: : // |/: : : :.:.| | ′
〉 |: :l//: :イ圷万ミぇ ##/:./ ,ィf竓万ミ|: : : : : | | 〈
{ :レ/ : : : : 从 _):::::i |.##./ _):::::i |丿: /.: :/|/ :}
∧ノィ: |i: : : : : : | 乂zン.##. 乂zン / /.: :/ ∧
/ : 〉|八: : : : :八####### ., / イ : / |:‘,
/: : ( / \: : : : :\..###. /: :/ ノ.: : ‘,
/: : : :〉 〈 : \: : `トミ.##. < > /l :/:〉 (: : : : : ‘,
/: : : :/ } : : : \ ( : >._ _イ: : :|/.:{ }: : : : : : :\
. /: : : : : :{ ノ\/\ : :\: :/ |` __ ´|>}: : : : /^〉 〈: : : : : : : : : \
. /: : : : : : : : 〉 〈/^>\ノ\―' \_ __/ `ー=^〉 ヽ }: : : : : : : : : : : \
/: : : : : : : : : : { /:::::::::_] ‘, く / ̄ ̄ `Y´二二\ | { 〈\ : : : : : : : : : : : \
/ : : : : : : : : : : : ノ ::::::::::::( i 」 |/| ̄ ̄>/\ヘ l/| _〉 } }、 \ : : : : : : : : : : : \
/: : : : : : : : : : : : : :i |::::::::::::: ̄) | L |/|_/ / ∨/ { {〉 〈:::、 : \ : : : : : : : : : : : \
/: : : : : : : : : : : : : : : :| |:::::::::::::::::{__ | | \__,/ | r‐'⌒\ _) r‐{ i::::, : : : :\: : : : : : : : : : :
そのまま、じっとやる夫の目を見つめる。
.
609 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:04:00 ID:Cnt0v6QE0
その瞳が問いかけているのを悟って、やる夫は右の拳を上げ、深く頷いた。
_____
/ \
/ \
/ \, ,/ \
/ /´ `ヽ /´ `ヽ \
/ ( ● l l ● ) \
| ヽ_ _ノ ヽ_ _ノ |
| ''"⌒'( i )'⌒"' |
\ `┌,─'^ー,,-┤ /
\ `ー -- -一' /
/ \
/ ̄ ̄ヽ; ヽ
(「 `rノ |
ヽ ノ i |
i´ ̄ ̄`i l |
決別の日、天神橋の上でそうやって誓った姿のまま、頷いて見せたのだ。
.
610 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:04:20 ID:Cnt0v6QE0
翠星石が瞳を閉じ、大きく息を吐く。
// 7|ヽ_彡 ´ ̄ ̄ ̄ : : : ̄ ̄: : :\__〉 \
. ノx.__ノ⌒´ : : : : : : : : : : i: : : : :、 : : :ヽ : : : : :‘, \
, / __ノ: : : : : : : : : : : : : : : : :!: : : : :.ヽ: : : : :, : : : : ‘, ,
. / {ノ : : : : : /: : : : : : : : : : : : :|: : ト:、 : : : : : : ', : : : : : :. /
/ !: : :.i: : : :i: : : : : : : : : : : : /|: :i| \: : : : : : ::' : : : : : : /
. / |: : : |: : : :| : : : i: : : : : : : / :|: :リ __ヽ:_:i_: :.i : : : : : ∨
′ |: : : |: : : :| : : : |: : : :__/ !:./ ', |\:`:|: : : : : : :|
. , |: : : |: : : :| : : : レ':´: : /.##.|/ _斗=ミi: : : : : : ,
{ |: : : l: : : :| : /|: : : /.##.ノ ィ爪:::::j リ ハ: : : : /
. \ : : : :.、: : ∨/: |: ∠ ==ミ#. ゞ''"゚ ̄` |: : : ∧
人: : : :\ : ∨ ;ィ八::::::以ヾ :::::::::::::: |: : :イ:∧
`ー\: : : :\: :《乂少''゚´### .’ //i |: :∧
. |:\: : : :\\###### /イ 7「|__「\
|: : : ト : : : :\>.##. _ ´ 八 / ┬ ノ⌒ヽ__
. /|: : :人 `トミ : : \_#. / \i r┴{ ┬┘::\ _
_ /斗-く _>、)_  ̄> __ . イ i |Y__ ノ く:::::::::::::::ヽ /⌒ヽ\
/⌒: : \ /:.ゝ\ノヽ, \ \ \二二二 / ノ }イ / 7=┘::::::::::::::::V⌒V.:i : ト
. イ : //: :/ヽ/.:/ :::::::::::У\ _Χ‐\ ___ ̄ ̄「 /二二¨< } `ト {_::::::::::::::::::::::::::∨/:|: | : |:
': |: 〃: : /.: : :/: :i:::::::::::::::::'へ 〈 `ー// ̄ ̄>(⌒)く / {>_>/ /::::::::::::::::::::::::: ∨/:/: :八
: :∨: : : :i: :/: :/|:::::::::::::::::::::::Уヽ/ \\ ./ / ⌒\\ ./ イ 〈 廴[:::::::::::::::::::::::::::::::八/: :/: :
: : :.\: : |´: : : :{人:::::::::::::::::::::\〃 iノ }\\/ イ 丁}{ T\∨//ヽL∨_」:::::::::::::::::::::::::::::/ /: :/: : :
再び双眸を開いた時、それが潤んでいるのが遠目にもわかった。
.
611 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:04:40 ID:Cnt0v6QE0
翠星石は両手を胸の前で合わせると、こちらに向かって深々と頭を下げる。
, -―- 、
,.ィ ´ __ `ヽ、
. / ,.ィ ´ `ー-、 `ヽ、
. く / ※ ※ `ヽ/
`/ _, -―‐-、_ l
/:l, -‐:'´: : : : : : : : : `ー、l',
/: :l: :l:: : : : : : : : l: : : : : : l: ',
/: : :l: l: l: : : : : /:/!: : :l:l: :/:.∧
/: :ハ`ヽ:.l: : : ;.ィ:/-弋: l: /`7:∧
. /: : `iゝ! ヽ!'ヽ/_'_, ィ´/'´/ノ:l: :∧
/: : : :l:::::l l 《ノ 、》 / ./:::::::l: : ∧
/: : : : l::::::l ※l ¨ij 〉〈 ij l l:::::::::l: : :.∧
. /: : : : :/:::::::! ! .ij〈 ノ ij l※l::::::::::!: : : ∧
/: : : : :/::::::::::l l .ij.ノ 〉 ii ! !:::::::∧: : :.:∧
./: : : : :〈:::::::::::::l l^.><ー! l:::::::::::∧: : : ∧
: : : : : : :ヽ::::::::::l ※l圭ヽ/圭! l::::::::::::::::〉: : : ∧
: : : : : : :./`ー-、! l圭圭圭/ /`、_:;:ィ: : : : :.:∧
翠星石とやる夫、二人だけに通じる仕草であった。
.
612 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:05:00 ID:Cnt0v6QE0
戻ってきた水銀燈から団子の折りを受け取ると、
ダディはやる夫の肩を借りて夜見世を後にする。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
|(⌒), 、(⌒)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
| `-=ニ=- ' .:::::::|
\ `ニニ´ .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
____ | '; \_____ ノ.| ヽ i
/ \ | \/゙(__)\,| i |
/ ⌒ ⌒\ > ヽ. ハ | ||
/ ( ●) ( ●)ヽ
l ⌒(__人__)⌒ |
\ ` ⌒´ /
/ ヽ
.
613 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:05:25 ID:Cnt0v6QE0
通りを抜けて東横堀川まで戻ったところで、
ダディはやる夫の顔を覗き込んでにやりと笑った。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(○), 、(○)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| もう母親への紹介も済んださかいな、
. | `トェェェイ ' .::::::|
\ `ニニ´ .:::::/ これからは堂々と会いや。
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i ただし、 『 雪華綺晶 』 としてな。
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
___
/ \
/\ / \
/(○ ) (○ ) ヽ
|///.(__人__)//// | だ、旦那さん!
\ |r┬‐| /
/ `⌒ ´ \
.
614 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:05:42 ID:Cnt0v6QE0
/`ー──一'\
,r(●)(、_, )、(●)\
. | '"トニニニ┤'` .:::|
|. | .:::| .::::| 糸寒天を苦労して作り上げたお前はんへの、
. | ヽ .::::ノ .::::::::|
\ `ニニ´ ..::::::/ これが私からの褒美や。
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
言ってダディは、からからと笑った。
.
615 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:05:55 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
616 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:06:08 ID:Cnt0v6QE0
翌、未明。
===================================================;;;|..│
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
 ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
==@==@==@==@==@==r─ー─‐-──ー┐@==@==@==@==@==@==
─────────‐| 井 川 屋.│─────────
:: : :| |;;| :::: :::: :____`ー─-─-‐ー─┘____:::::::::::::: :| |;;| :
| |;;| ::||三三三| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|三三三||: | |;;|
| |;;| ::||三三三|__|__,,ノ___,ノ___,,|三三三||: | |;;|
| |;;| ::||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三三||: | |;;|
| |;;| ::||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三三||: | |;;|
| |;;|:::: /||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三 /:: :::::::::::::| |;;|:::::
| ̄ ̄| ̄ ̄|. ||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三|| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄
| | |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三|| | | |
| | |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三|| | | |
|__|__|/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;||_|__|__|_
.
617 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:06:30 ID:Cnt0v6QE0
ダディは布団からむっくり上体を起こすと、鼻をひくつかせた。
__/ヽ_∠L_ ~~~
/::::::: ''''\ ~~~
. |::::::::: (●), |
|:::::::: ,,イ_,`)
. |::::::::: ノ.-=ラ 何やろか、この匂いは?
\::::::: `フ
,,.....イ.ヽヽ:: 、 -─'--、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
七十五歳になり、目も耳も衰えたが、幸い鼻と口は達者だった。
.
618 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:06:57 ID:Cnt0v6QE0
起きだして、足を引き摺りながら台所へ向かう。
/\___/ヽ
/''''''≡≡'''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | `-=ニ=- ' .:::::::| (茶粥やない……)
\ `ニニ´ .:::::/
/:: ::\ //::::: \ (この匂いは……餡?)
/:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
/:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i
f´:: ::i;;:: :: :: /:: :: :: :|;;;;;;;;:::|
__r''ヽ:::|;;;;::/:: :: :::;;;;;:::ヽ;;:: :ノ
台所に近づくにつれて甘い匂いが強くなる。
.
619 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:07:14 ID:Cnt0v6QE0
いく夫が廊下の脇から台所を窺っていた。
|┃
|┃
|┃ _____
|┃ ./::::::::::::::::::::::::::.\
───|┃ /:::::::::::::::::::::::::::::::::.:゙i.
|┃ |゙i::::::::::::::::::::::::::::::::::::|.
|┃ |〈::::::::::::::::::::::::::::::::::::|.
|┃ (@)::::::::.:::::::::::::::::::::::|.
|┃ | ヾ:::::::::::::::::::::::::::::|
|┃ ヽ、 .''ー'''ー'゙'ー''ヾx
|┃ ,,.. .-‐ ' \
|┃
|┃
.
620 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:07:46 ID:Cnt0v6QE0
主に気付いた番頭が低い声で告げる。
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
|.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
|::::::::/ \::::::::/i:::|
|:::::::〉( ●)::( ●).| 旦那さん、台所に誰ぞ居ります。
.(@ ::::::⌒(__人__)⌒)
| ` ⌒´ | 泥棒だすやろか?
\ ,/
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| 泥棒が悠長に台所で餡なんぞ煮るかいな。
. | ´トェェェイ` .::::::|
\ `ニニ´ .:::::/ 大方、女衆が賤しん坊してるんやろ。
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i まあ、見逃したんなはれ。
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
.
622 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:08:07 ID:Cnt0v6QE0
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
|.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ:::.|
|::::::::/ \ / .l::|
|:::::::〉( ●) ( ●)| いえ旦那さん、
(@ ::::::⌒(__人__)⌒|
| u ` ⌒´ | それでは示しがつきまへん。
\ ,/
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ
| \/゙(__)\,| i
/\___/ヽ
/ ,,,,,,,ノiヽ,,,,,,:::i|li:\
. |(○), 、(○)、 :|
| ⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒ u.:::|
. |.u (^・^> 。.:::::::| お、おい、いく夫。
\ ゚ ⌒´ u .::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
いく夫は主の制止を振り切って台所へと下りていく。
.
623 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:08:45 ID:Cnt0v6QE0
そうして三和土に立って怒鳴る。
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
|.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
|::::::::/ \:三::/i:::|
|:::::::〉( ○)::( ○).|
.(@ ::::::⌒(__人__)⌒) 何してますのや、
| |i|!i|!| |
\ `⌒´ ,/ 隠れてこそこそと!
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
____
/::: \
/:::::::::: \
/:::::::::: \
|::::::::::::::: |
/⌒::::::::: ⌒ヽ/
./:::::::::::: \
./:::::::::::::: \ ヽ
へっついの前に屈んでいた人影がぎょっとしたように身じろぎする。
.
624 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:09:20 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/ \
/ _ノ ::::::: ゝ、 \ す、すんまへん……
| (○) (○) u |
\ (__人__) ,/
/ `⌒´ \
_____
.. /.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
.. |:::::::γ⌒^Y⌒ヽ :.|
.. |:::::::::/ ._ノ ヽ ..|
|:::::::〉 ( ○) (○)| や、やる夫?
. (@ ::::⌒(__人__)⌒)
| u |r┬-| |
\ `ー'´ /
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
いく夫はぽかんと口を開けたまま棒立ちになった。
.
625 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:09:37 ID:Cnt0v6QE0
┃
┃
┃
┃
┃
┃
・
・
・
:
:
:
|
|
¦
!
626 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:09:55 ID:Cnt0v6QE0
常は食事を摂る板敷に、店主、番頭、丁稚が膝を詰めて座っている。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | `-=ニ=- ' .:::::::| やる夫、
\ `ニニ´ .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、 これは一体どういうことや?
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.ヽ ____
|.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.| / \
|::::::::/ \::::::::/i:::| / \
|:::::::〉( ●)::( ●).| / _ノ ::::::: ゝ、 \
.(@ ::::::⌒(__人__)⌒) | (○) (○) u |
| ` ⌒´ | \ (__人__) ,/
\ ,/ / `⌒´ \
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
やる夫の脇には、餡をはぎ取られた団子と、小鍋が置かれている。
.
627 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:10:23 ID:Cnt0v6QE0
いく夫があきれ果てた、という顔で言う。
_____
/:::::::::::::::::::::::::::.\ 奉公人が勝手に台所使て、
|.::/⌒Y⌒ヽ:::::::::::.|
| ノ \ i:::::::| こないな時間に物つくって
|(─) (─ ) 〈::::::|
(⌒(__人__)⌒:::: @) 口いやしいに食べるやなんて聞いたことおまへんで。
| |r┬-| u |
\ `ー'´ / やる夫、お前はん
,-- ゝーー ___/ /ゝ--、
イ / |.!、 _____ / ノ | i 一体何年ここでご奉公してるんだす?
| i |,/(__)ヽ/ | l
____
/ ノ ヽ\
/ (●)}liil{(●)
/ (__人__) ヽ た、食べよう思てたんやおまへん!
| |!!il|l| |
\ lェェェl /
/ ヽ
.
628 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:10:48 ID:Cnt0v6QE0
____
/ \
/ _ノ ヽへ\ その、糸寒天が
/ ( ―) (―) ヽ
.l .u ⌒(__人__)⌒ | 『 つなぎ 』として使えるもんか、
\ ` ⌒r'.二ヽ<
/ i^Y゙ r─ ゝ、 それを確かめてみとうて……
/ , ヽ._H゙ f゙ニ、|
{ { \`7ー┘!
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:|
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
. | ,rエエェ、 .::::::|
\ ヽr-rヲ .:::::/ つなぎ?
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
.
629 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:11:09 ID:Cnt0v6QE0
やる夫はダディといく夫に
三十石船での出来事と、餡を寒天でつなぐという思いつきを語った。
____
/ \ そうしたら、さっき貰てきた団子の衣の餡が
/ \
/ _ノ ::::::: ゝ、 \ 気になって気になって、
| (○) (○) u |
\ (__人__) ,/ 居ても立ってもおれんようになってしもうて……
/ `⌒´ \
_____
.. /.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
.. |:::::::γ⌒^Y⌒ヽ :.|
.. |:::::::::/ ._ノ ヽ ..|
|:::::::〉 ( ○) (○)| …………
. (@ ::::⌒(__人__)⌒)
| u |r┬-| |
\ `ー'´ /
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | ||
.
630 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:11:35 ID:Cnt0v6QE0
話を聞き終えたダディが唸る。
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:| 固めるんや無うて、つなぐ、いうことか。
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::|
. | u `-=ニ=- ' .::::::| しかし、練り上げた餡を寒天でつなぐ、て
\ `ニニ´ .u ::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、 どないなことになるのか私には見当もつかん。
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゙(__)\,| i | いく夫、お前はん、どない思う?
> ヽ. ハ | ||
_____
/.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
|.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
|::::::::ゝ ― ― |
|::::::( ( ●) (●)| …………
(@ ::::⌒(__人__)⌒)
| ` ⌒´ |
\ /
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ
| \/゙(__)\,| i
問われたいく夫は無言で小鍋を取り上げ、その中身に目を落とす。
そこには団子からはがされた餡が練り上げられていた。
.
631 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:11:58 ID:Cnt0v6QE0
_____
/.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
|.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
|::::::::ゝ \ / | 見当がつかんからこそ、
|::::::( ( ●) (●)|
(@ ::::⌒ノ(、_, )ヽ⌒) やる夫も、こうやって試そうとしたんだすやろ。
| `-=ニ=- |
\ `ー'´ / 旦那さん、私は面白いと思います。
,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ これに、思う存分、やらせてみとおます。
| \/゙(__)\,| i
___
/ヽ、 _ノ\
/ (○) (○)\
/ (___人__) ..\
| u ノ ヽ, | ば、番頭はん!?
.\ (/⌒ノ´フ ./
. .> . ̄ ̄´ <.
.
632 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:12:26 ID:Cnt0v6QE0
_____
/.::::::::::::::::::::::::::.:ヽ 糸寒天が餡のつなぎとして使えることがわかれば、
|.::::γ⌒ Y ⌒ヽ::::::|
|::::/ / \ |:::| 今までご縁のなかった菓子店にも
|:::〉 (●) (●) 〈:::|
(@ ⌒(__人__)⌒ @) 井川屋の寒天を使てもらえます。
| |r┬-| |
\ `ー'´ / ジャギはんの言葉やおまへんが、
__,. <.ム ___ーーノ ヽ__
_, 、<¨ : : : : :l : :.ヽ ∧::〈ヽi :、ヽ、 それこそ、料理の幅が広がり、
/ : : : : : : : : : : :|_ : :∨ |:;Λ | : :、 : >、
丿 : : : : : :i: : : : : : :/ : ∧ |::Λ |\> : : : `, 商いのお客の幅も広がります。
____
/ \
/ _ノ ヽ、\
/ (○) (O) \ …………
| || (__人__) ..|
\ ノi ! |. /
/ し' `⌒´ .ノ
| ./ ./
.
633 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:13:26 ID:Cnt0v6QE0
__/ヽ_∠L_
/::::::: ''''\ ……いく夫。
. |::::::::: (●), |
|:::::::: ,,イ_,`) やる夫が持って帰った糸寒天な、
. |::::::::: ノ.-=ラ
\::::::: `フ あれ、二つに分けなはれ。
,,.....イ.ヽヽ:: 、 -─'--、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i うち一つは、
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | || やる夫に好きなように使わしたり。
_____
/:::::::::::::::::::::::::::::::\
/,,| ::::γ⌒^Y⌒ヽヽ::::|
./,/|:::::ゝ \ / |::| へえ!
./⌒(@::..( (●) (●) |⌒ヽ
/ /|::::.u⌒(__人__)⌒|/ヽ_ \
..( ⌒ー-ィ⌒ヽ、 /⌒`ー'⌒ )
─────`ー──ゝィソノー‐ヾy_ノー─"──────
いく夫は板敷に手をついて、主人に頭を下げる。
.
634 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:14:02 ID:Cnt0v6QE0
/\___/ヽ
/ノ⌒'" `'ー-、::::\ やる夫。
. | (●),、(●)、 .:|
| ,. (,、_,、)、_ .::::| お前はんには悪いが、今の井川屋には、
. | {,`ト===イ ,} .::::|
\ ヾニノ .:::::/ 小豆も砂糖もふんだんに使わせる余裕は無い。
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
: | '; \_____ ノ.| ヽ i せやから、せいぜい始末してやっておみ。
| \/゙(__)\,| i |
> ヽ. ハ | || それで、ええか?
/ ⌒`"'⌒`ヽ、
/,, / ̄ ̄ ̄ ̄\
/,//:: \
;/⌒'":::.. |⌒ヽ へえ……
/ /、:::::... /ヽ_ \
__( ⌒ー-ィ⌒ヽ、 /⌒`ー'⌒ )
━━━`ー──ゝィソノー‐ヾy_ノー─"
やる夫は小さな声で答えるのがやっとだった。
.
635 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:16:06 ID:Cnt0v6QE0
____
/::: \
/:::::::::: \
/:::::::::: \
|::::::::::::::: |
\:::::::::::::: /ヽ
/::::::::: くゝ )
;|:::::::::::: / ;
;|:::::::::::::: イ ;
ダディといく夫に背中を押されたことが何よりも嬉しかった。
.
636 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:16:29 ID:Cnt0v6QE0
_________|\
[|[|| 次章へと続く… >
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/
.
637 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/04/28(月) 23:17:38 ID:Cnt0v6QE0
本日の投下は以上です。
次章投下は5月中旬、GW明けを予定しております。
.
638 名前:名無しのやる夫だお[sage] 投稿日:2014/04/28(月) 23:18:50 ID:PNyUHVqo0
乙でした
644 名前:名無しのやる夫だお[sage] 投稿日:2014/04/29(火) 18:27:24 ID:hfIVSiXI0
乙!
なんか物事が少しずついい方向に動き出してる感じの心地よさがある
645 名前:名無しのやる夫だお[sage] 投稿日:2014/04/29(火) 20:01:09 ID:TllH5Bng0
乙でした
翠やいく夫の態度が良くなっていくのがいいな
名前:[{{comment.comment_mail}}] 投稿日:{{comment.comment_date}}ID:{{comment.comment_user_id}}